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2016-09-28 00:00
次期米大統領は対外関与果たせるか?
鍋嶋 敬三
評論家
2016年アメリカ大統領選挙は9月26日(日本時間27日)の第1回テレビ討論会で最終盤を迎えた。討論会前の民主党クリントン、共和党トランプ両候補の世論支持率の差は2ポイントと予断を許さない。討論では(1)経済・通商政策(2)米国の進路(3)安全保障政策について激論が交わされた。安全保障では、トランプ氏が持論の「安保ただ乗り論」を展開、「同盟国は米軍駐留経費を十分負担していない」と批判、「このような日本の防衛はできない」と決めつけた。これに対してクリントン氏は世界の多くの指導者がトランプ発言に「懸念を示している」と切り返し、日本、韓国などとの同盟条約を守ることを再確認した。「ただ乗り論」は米経済が苦境に陥ると噴き出してきた。世界のリーダーとしての同盟国に対するコミットメント(関与)と失業など国内の経済的不満の矛盾の表れである。
オバマ大統領が「世界の警察官にならない」と宣言したのを「米国の弱腰」ととらえた中国、ロシア、北朝鮮、イスラム過激派(IS)などが攻撃的姿勢を強め、国際秩序を揺るがす促進剤になった。トランプ氏は討論会で同じ発言をした。米国は国際的コミットメントによって第2次大戦後、現在に至るまで政治、軍事、経済的に多大な利益を享受してきたことを忘れたのだろうか?米国は東西冷戦で二国間条約、北大西洋条約機構(NATO)など多国間条約でソ連を包囲して崩壊に追い込み、欧州連合(EU)の拡大をもたらした。経済的にも米国のリーダーシップの下で多国間通商交渉の主導権を握った。グローバル経済の下、多国籍企業の活躍に道を開き、米国経済繁栄の道筋を作ったのである。
ランド(RAND)研究所が討論会の4日前にまとめた研究論文は、米国の海外安全保障コミットメント(関与)がもたらす経済的利益はそのコストをしのぐという結論を示した。米国内の「関与派」は米国の国際的な指導力は世界の安定と国内の繁栄との肯定的な関係によって正当化されると主張する。一方、「削減派」は米国の関与はコストがかかりすぎ、相手国に米国国防予算へのただ乗りを許して安全保障と安定を達成していないと批判、対外関与の大幅削減を主張する。RANDによれば、米国の対外的な安保関与は二国間貿易に相当なプラス効果をもたらした。一方で国防費削減によって得る利益よりも、国内経済(国民総生産)に与える損失の方が3.5倍にも達すると結論付けている。そして対外関与を削減することによって、米国が経済的により貧しくなるという問題に直面するとして、政策立案者に慎重な検討を求めた。
米国政治の分極化によって政治機能の不全に陥った問題についてはかつて本欄でも何回か取り上げたが、予備選挙ではそれが鮮明に映し出された。中道派の退潮である。民主党では左派のサンダース上院議員が予想外の支持の高まりでクリントン氏を追い上げた。共和党は主流派の執行部が予備選でトランプ氏と距離を置き、大統領経験者が指名党大会を欠席する異例の事態だ。高名な政治学者のW.R.ミード氏は予備選最中の5月に発表した論文で、「次期大統領は困難な責務を負う」として、国際的な挑戦は激しさを増し、国民の現状不満が増大し続けると予測、「政治的な感情が高ぶり、分極化が深まるだろう」と予言している。「米国による平和(PAX AMERICANA)に対する新たな挑戦が強まっている正にその時に、国内的危機がアメリカ社会を揺るがしているのだ」と指摘した(The American Interest)。その危機感こそ、同盟国である日本も直視すべきものである。
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