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2016-10-01 00:00
(連載2)東風と西風が吹き乱れる
角田 勝彦
団体役員、元大使
日本は軍事行動(例えば航行の自由作戦)は真打の米国にゆだねつつ、世界世論戦、外交戦を行っているが、さらに関係国が中国の挑発に対抗できるようにするための能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)も行っている。安倍首相は、ドゥテルテ大統領との9月6日の会談で、海上自衛隊の練習機の有償貸与や大型巡視船の円借款供与で合意した。
軍事面での正面衝突は中国としても想定外だろう。孫子の兵法にも(訳せば)「最上の戦いは、敵の謀略を読んで無力化することである。その次は、敵の同盟、友好関係を断ち切って孤立させること。それができなければ敵と戦うことになるが、城攻めは、他に方法がない場合に行う最後の手段である」とある。日米同盟を堅持しつつ、日本は、とくに尖閣をめぐる偶発的な武力衝突を回避することに全力を注ぐべきである。9月5日の日中首脳会談では、偶発的な軍事衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた協議加速で一致した。ただし、この関連で、中国の程永華駐日大使が6月下旬ごろ、南シナ海で米軍が実施する「航行の自由」作戦に自衛隊が派遣されれば「中国の譲れぬ一線を日本が越えることになる」として、絶対に容認できないとの考えを日本政府高官に伝えていたのは、留意すべきだろう。中国は日本が南シナ海の動きに介入するのにもっとも神経を尖らせている。
法律戦で、中国は南シナ海のほぼ全域に「歴史的権利」があると主張し、フィリピンが仲裁裁判所に提訴していたが、2016年7月12日、仲裁裁判所は中国の主張する「九段線」を法的に「無効」とする判決を出した。中国の敗北である。中国は4つのノー(提訴を受け入れない、裁判に関与しない、結果を認めない、判決を履行しない)を言っていたが、今回改めて中国外務省は「判断は無効で、拘束力はない。中国は受け入れず、認めない」とする声明を発表した。中国要人は「裁定は紙くずに等しい」とすら言っている。しかし、海の憲法とも言われる国連海洋法条約には165の国・地域とEUが批准し、中国も批准の意義が問われている。「無理を通せば道理が引っ込む」とはなるまい。世界世論戦での中国の立場が悪くなるだけである。9月20日ニューヨークでのG7外相会合は、仲裁裁判所判決を「紛争の平和的解決に向けたさらなる取り組みのための有用な基盤だ」と評価し、法的拘束力を持つ「行動規範」の早期策定を中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に求めた。
9月23日に発表されたある日中共同世論調査では、日本人の対中印象は悪化した。「良くない」が昨年より2・8ポイント増えて、91.6%になった。これは8月に相次いだ中国公船などによる尖閣周辺の領海侵入のほか、7月の仲裁裁判所の判断を中国が無視していることが影響したとみられる。反米的動きを見せるフィリピンのドゥテルテ大統領に日本はいち早く訪日を招待していたが、ドゥテルテ大統領は9月26日、10月に検討している日本訪問の前に中国を、日本の後にロシアを訪問することを明らかにした。「中国、ロシアと開かれた貿易同盟を組む」と話しており、経済協力にも期待している。中国が仲裁裁判判決をどのていど重視しているかを見る良い機会になろう。東風と西風は依然吹き乱れている。(おわり)
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