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2016-10-03 00:00
プーチンには北方領土で日本に「譲る」気配はない
河東 哲夫
元外交官
12月15日にプーチン大統領が来日することになっている。日本のマスコミは、ここで北方領土問題が必ず「解決」し、その成果をひっさげて安倍総理は早期解散、総選挙で蓮舫・民進党を打ち破り、その勢いで自民党総裁任期延長を勝ち取る、そうすれば2020年の東京オリンピックまで安倍政権は安泰、というシナリオを書き立てる。しかしこのシナリオにはいくつか問題がある。それを以下に指摘したい。
一つは、ロシア外交は今上げ潮で、プーチンには日本に「譲る」気持ちはないということである。米国オバマ政権は自分の時代にシリア、ウクライナ問題を片づけておきたいようで、そのためにロシアに随分譲る気配を見せているが、ロシアはむしろそこにつけこんで、逆にポイントを稼いでいる。その典型は中近東である。サウジ・アラビア対イラン、トルコ対イラン、イスラエル対アラブ等の間には断層があるにもかかわらず、ロシアはその断層に乗じて、逆にこれら諸国のいずれにも食い込んでいる。ネタニヤフ首相など、この頃ではワシントンよりモスクワ詣での方が多いほどだ。
それはアジアでも同じで、9月2日ウラジオストックで開いた東方経済フォーラム(昨年に次いで二度目)には、昨年見向きもしなかった安倍総理、朴大統領がやってきて、プーチンと並んでスリー・ショットのセミナーまで開催して見せたのである。安倍総理は北方領土問題、朴大統領はTHAAD配置ですっかり関係が悪化した中国との関係のとりなしを頼むために行ったのだろうが、プーチンにしてみれば、「すべての道は俺に通ずる」かのように見えたことだろう。なおこのフォーラムは、昨年も9月3日に開かれているが、この日は中国では対日戦勝記念日になっており、昨年は初めて大々的な軍事パレードも挙行、ロシアからはプーチン大統領も出席した。今年、プーチン大統領はウラジオに止まり、中国も対日戦勝記念日関連の大々的な行事をしなかった。
去年やったのは70周年という節目だったためだろうか? 今年は直後に杭州でのG20を控えていたので、この手の示威行動は控えたのだろうが、とにかく中国が対日戦勝を祝うべき日に、日本、ロシア、韓国の首脳がウラジオでエールをあげていたというのは、極東におけるバランス外交上意味があることだった。9月4日杭州でのG20首脳会議では、習近平がプーチン離さじとばかり、先頭を並んで歩いて他の首脳を会場に導き、会議の外では英独仏、トルコ等々、並み居る国々の首脳が先を争うようにプーチンとの会談を行った。だから、プーチンの取り巻きは、「ロシア外交の勝利」をプーチンに吹き込んでいることだろう。まるで米国はどこかに霞んでしまい、諸国の首脳は皆、プーチンの「接見」を求めてにじり寄ってくるかのような。そのようなロシアに、北方領土問題で日本に「譲る」気は起こらない。日本が経済的利益を求めて、すり寄って来たように見えているのではないか。
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