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2016-10-11 00:00
米次期政権にらむ北朝鮮核開発
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮による核実験、弾道ミサイル発射に向けた挑発的な行動への動きが活発化、米韓両国の合同軍事演習が10月10日始まり、朝鮮半島危機がこれまでにない高まりを見せている。国連安全保障理事会による新たな制裁決議案は主に中国の抵抗で結論を得るに至っていないことも、北朝鮮の挑発を容易にしている。北朝鮮の狙いは1ヶ月足らずに迫った米大統領選挙をにらんで「核兵器保有国」であることを次期政権に認めさせることにある点で専門家の見方は共通している。オバマ米政権は北朝鮮を「核保有国として認めない」と公言しているが、加速する核兵器と弾道ミサイルの開発に対しては打つ手がないのが現実だ。直接の脅威に直面する日本、韓国との安全保障関係の強化を促進して、米国の核の傘による「拡大抑止」を確実にすることのみが「北」の暴走に対する歯止めになる。
北朝鮮は9月5日に弾道ミサイル3発を発射、1000キロメートル飛行して北海道奥尻島沖250キロメートルの日本海のほぼ同じ地点に落下、正確な弾道技術を見せつけた。同9日には第5回の核実験(爆発規模10キロトン)を行った。「北」の核兵器研究所の声明は、「小型化、軽量化、多種化されたより打撃力の高い各種核弾頭を必要なだけ生産できる」と核開発の進展を誇示した。北朝鮮外務省報道官は10月6日、「米国は近い将来身震いするような現実に直面するだろう」とどう喝した。米国はその核開発を封じ込めようと1994年に「枠組み合意」したものの、北朝鮮は2006年に初めて核実験を行い、その後も3-4年おきに核爆発を実行、着実に核開発を進めてきた。弾道ミサイル開発も急ピッチで、2016年だけでも22発を発射。日本を射程に入れるノドンや米軍グアム基地に届くムスダンなど中距離ミサイル、テポドン2派生型の長距離ミサイル、潜水艦発射ミサイル(SLBM)の発射実験を行った。
北朝鮮が目指すのは究極的に核弾頭を搭載した大陸間弾道弾(ICBM)によって米本土を攻撃できる能力を示して米国を直接交渉に引き込み、体制を保証させることだ。ブッシュ政権で国家安全保障会議(NSC)のアジア部長を務めたビクター・チャ氏(ジョージタウン大学教授)は北朝鮮の動きは「明らかに米国の次期政権に向けたもので、新大統領に北朝鮮が核保有国であることを見せたいのである」と分析している(AP通信)。下院外交委員会アジア太平洋小委員会で9月27日に証言したラッセル国務次官補は「米国は北朝鮮を核保有国として受け入れない」と明言した。しかし、6ヵ国協議は北朝鮮の拒絶によって事実上無力化しており、核開発のさらなる進展によって、目標とする「非核化」は一層悲観的にならざるを得ない。
米国は、中国への配慮から後ろ向きだった韓国の朴政権を説得して高高度地域防衛(THAAD)システムの韓国内配備を決定。ラッセル氏は北朝鮮のミサイル実験のペースが早まっているとして「THAAD配備を加速、できるだけ早く」と言明した。オバマ政権の外交・軍事戦略の柱であるアジア太平洋への「リバランス(再均衡)」の目指すところは「同盟の再活性化と同盟国間のネットワークの構築」(同氏)である。その中心に据えられるのが、米日韓3ヵ国の協力強化に外ならない。慰安婦問題でこじれきった日韓関係が2015年末の日韓首脳合意でともかく動き出し、米国はこれを「歴史的合意」と歓迎した。日韓関係がぎくしゃくしていては米日韓協力を柱とするリバランス政策は機能しないからだ。日韓合意を受ける形で2016年に入って3ヵ国の首脳(3月)、国防相(5月)、外相(9月)と立て続けに会談が組まれたのは、それを北東アジアの安全保障協力の死活的な枠組みとする米国の強い期待の表れであろう。
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