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2016-11-02 00:00
TPP国会論争の不毛
加藤 成一
元弁護士
環太平洋連携協定(TPP協定)の批准に関する審議が臨時国会で行われている。しかし、中身の議論が少なく、不毛な議論が延々と続けられている。いわく「強行採決発言」で大臣を辞任せよ、辞任しないなら審議をボイコットする、いわくアメリカ大統領候補も「反対」しているから、批准を急ぐ必要はない、いわく「価格調整金問題」の真相究明をせよ、などである。不毛な議論は、批准にあくまでも反対し、審議未了、時間切れ廃案を狙う民進党や共産党の戦術に、主たる責任があると言えよう。
本来ならば、TPP協定によって影響を受けるとされる日本農業の現状や将来像についての建設的な議論や、農業以外の分野におけるTPP協定のメリットとデメリットの議論、さらには、TPP協定による経済、外交、安全保障上の意義などの議論をもっと深めるべきである。民進党や共産党は、これらの議論を避け、ことさらデメリットの部分のみを取り上げ、国民に不安を煽っている、としか思えない。閣僚の「強行採決発言」は不適切ではあるが、「強行採決」の有無は、TPP協定の主たるテーマではない。また、アメリカ大統領候補の「反対発言」に、日本が追従する必要は全くない。日本は自国の国益を考えればよい。米大統領候補の「反対発言」は、遅れてTPP協定交渉に参加した日本の粘り強い交渉力が成功し、日本が大きな成果を勝ち取った証明でもある。
さらに、民進党や共産党は、外国産米の輸入業者と卸売業者との間でやり取りされたとされる、いわゆる「価格調整金問題」を取り上げ、厳しく政府を追及し、真相究明を求めている。しかし、日本は現在でも、ガット・ウルグアイ・ラウンドに基づく「ミニマム・アクセス」として年鑑77万トン(うち主食用米10万トン)の外国産米を輸入している。その比率は、日本の主食用米の生産量788万トン、非主食用米の生産量73万トン、加工用米の生産量27万トンの合計888万トン(平成26年度農林水産省統計)の8.67%(主食用米に限れば1.26%)に過ぎないから、もともと輸入外国産米による国産米価格に対する価格影響力はない。したがって、仮に、TPP協定発効により、新たに外国産米年間7万8000トンと同じ量の国産米を買い取り、これが追加輸入されても、合計84万8000トンの輸入外国産米の比率は、9.54%(主食用米に限れば2.25%)に過ぎないから、国産米価格に対する価格影響力はないと言える。しかも、政府は、TPP協定による新たな追加輸入外国産米年間7万8000トンを備蓄米(平成26年度備蓄米25万トン買入農林水産省統計)にすると言っており、なおさら「価格調整金問題」に拘わらず国産米価格に対する需給及び価格影響力はない、と言えよう。
民進党や共産党は、単に「反対のための反対」ではなく、世界に開かれた貿易立国である日本にとって、TPP協定の意義や、TPP協定によってもたらされるメリットについて、国益を踏まえ、もっと建設的な議論をすべきである。アメリカをはじめ、TPP協定に合意した多くの国々や、TPP協定に参加を希望する韓国なども、世界第三位の経済大国である日本の国会審議の行方を注視している。
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