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2016-11-11 00:00
(連載2)トランプのアメリカとこれからの日本
島田 晴雄
前千葉商科大学学長
(1)TPPは先に参加したアメリカの強い進めもあって日本は2013年に交渉参加を決意し、それ以来懸命に参加条件の国際交渉を推進するとともに、参加に対応すべく農業など国内産業の構造改革に努めた。国際的な基本合意は2015年10月に達成され、あとは各国の批准を待つばかりになったが、アメリカは議会の抵抗で批准が進まなかったばかりか、トランプ氏は一貫して反対。オバマ大統領を助けて交渉を推進したクリントン国務長官(当時)は、TPP反対派のバーニー・サンダース民主党候補の追い上げで、反対派に回ったため、大統領選はTPP反対一色になった。トランプ氏は大統領に就任したらその日にTPPから離脱すると言明しているので、そうするだろう。
TPP12カ国のGDP総額のうちもともと日米で約8割を占めており、アメリカが離脱すれば日本は残額の約4割を占めることになる。それでは国際貿易協定としてはほとんどメリットがない。日本は依然として基本的に貿易立国なので、自由貿易を享受することの意味は大きい。2013年に策定された安倍政権の成長戦略では2018年までにTPP等も含め自由貿易圏との貿易を7割にすると謳っているが、現在はまだ2割である。TPPが不成立なら、日本は成長のために中国が主導するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などへの注力が不可避になるかもしれない。オバマ政権主導のTPPには中国包囲網的な含意があったが、それが形骸化するなかでの日本の次の選択は国家戦略上、極めて重要な意味をもつ。トランプ政権の誕生は結果的に日本にそうした国際戦略の選択を迫ることになるが、日本にその用意はあるだろうか。
(2)雇用機会については、トランプ氏は選挙戦をつうじて、「アメリカの製造業労働者の雇用機会は中国や日本に奪われてきたので、それらの国々から雇用機会を取り戻す」と叫びつづけ勤労大衆の熱烈な支持を取り付けたことが大きな勝因になったとされる。雇用機会はそもそも製品の品質と価格(生産性)で決まるもので、大統領といえども力づくでその配分を変えることはできない。もし関税や数量割り当てなど人為的手段で配分を変えるなら市場競争が阻害され、それは結局、アメリカ労働者の雇用機会を全体として減らすことになる。しかし、トランプ氏はどうやら市場システムの理解を欠いているようなので、市場競争阻害的な手段を多用するおそれは大きい。トランプ氏はグローバリゼーションを否定するが、競争の否定で世界市場が縮小するというコストを払ってもグローバル化を阻止しようとするトランプ氏の政策はアメリカにも日本にも大きなマイナスとなる。とくに大きな影響を受ける日本は反市場競争主義の介入と干渉を防ぐ知恵と手段を持ち合わせているだろうか。
(3)日米軍事同盟について、トランプ氏は、日本を名指しで「アメリカに依存しているのにそのコストを払っていない」「全額を払わないなら米軍は撤退する」「核兵器でも何でも持って自国を守ればよい」などの主張を繰り返してきた。トランプ氏のこれらの主張は、日本が駐留経費の7割も負担している事実を知らない、日米安保がアメリカが世界を制御する地位を支えていることや、核不拡散の意義を理解していないことを示している。しかし、事実も知らず同盟の意義も理解していないトランプ大統領でもその主張だけは明確なので、日本は熱心に事実の理解を求めると同時に、それでもそうした主張が強制される場合について、現実的な戦略的対応案を策定しておく必要がある。たとえば、日米安保を頼れない場合の自国防衛の戦略などである。これら戦略的対応案は、今日から、大統領の就任式までの約2ヶ月間に政府や専門機関、専門家の周知を糾合して作成を急ぐ必要がある。(おわり)
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