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2016-11-24 00:00
(連載1)「2+α」論で繰り返される対露楽観主義
牛島 薫
団体職員
ロシアは、高官を使って幾度も「北方領土問題では妥協しない」というメッセージを日本に送り続けている。そしてついに、地対艦ミサイルを北方領土に配備したというニュースも飛び込んできた。さもありなんである。しかしながら、近時の対露外交の専門家達がいう「2+α」論、即ち「歯舞と色丹を先行返還してもらい、その後に国後と択捉を継続協議する」という、あまりにも無垢で楽観的な言説には正直、生硬な若者ながら、疑問を感じざるを得ない。経済協力という飴をぶら下げればロシアが日本の主権問題に譲歩する、などということがあるわけがないということは、ソ連時代から生でスラブ人を見てきた諸先生方が最もよく理解していたはずではなかったのか。
ところで、ソ連崩壊後に生まれた私達の世代では北方領土問題自体に関心が低いが、それでも関心を持っている者がいないわけではない。そういうわけで、最近北方領土問題について話すことができる数少ない学友たちと意見交換をする機会があった。予想通りではあったが、「2+α」という考え方に期待する向きは、聞き及ぶ範囲ではほとんどなかった。大体共通するのは、「2」だけを先行返還で得て、国後・択捉をロシアに残置することには、ほぼ実質的な価値がないということと、「+α」が日本に都合がよすぎてロシアがそれを認める動機が思いつかないということだ。聞くに値しない素人たちの見解であるという見方もできようが、「若い世代は日本の対露外交に希望を抱いていない」という声があることは留意していただきたい。
話がそれたが、やはり専門家の方々の見解を知らずして意見は持てないと考え、本稿を書く前に日本国際フォーラムに名が現れる数多くの有識者の方々の見解も可能な限りインターネットや新聞、対話報告書等を駆使して検索した。そうすると、結果は個人的には意外なものであった。敢えて名をあげることはしないが、諸先生方の間では「2+α」に類する主張が少なからずあるように感じられた。そして、彼らの見解の多くには説得力が十分ではないように思わざるを得ない。彼らの言説はロシアへの期待にバイアスが掛かっているようで「いかなる国境も実質的には軍事力によって画定される」という地政学上の基礎的な視点が軽んじられているようだからである。
西側との外交的行き詰まりや資源安を背景にした経済的困窮をチャンスと見た安倍政権は、ロシアに対して経済協力を先行して提示することで、プーチンが個人的リーダーシップを発揮して主権問題を解決してくれることを期待している。しかし、経済的アプローチで主権問題における譲歩をロシア人から引き出せないのは、戦後何度も行われてきた外交的挑戦の失敗から明らかで、経済的利益だけを食い逃げされる懸念が一部で出ているのも無理はない。このような戦略的欠陥があるのは、ロシアにデメリットを与えるカードが日本に存在しないことが大きい。安倍首相にはプーチンにプレッシャーを感じさせる手段がない。裏を返せば、ロシアが日本と平和条約を結ぶモチベーションは儀礼的なもので、実質的には皆無といっても過言ではない。樺太全域と千島列島・北方四島を全て併合し、国際的にもその施政権が認められているロシアにとって、北方領土問題を解決する必要性がそもそもないのである。(つづく)
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