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2016-11-25 00:00
(連載2)「2+α」論で繰り返される対露楽観主義
牛島 薫
団体職員
となれば、ロシアはどうすれば動くのであろうか。ロシアの行動原理を日本国際フォーラム理事長である伊藤憲一氏は昨年本欄への投稿「プーチン・ロシアはどこへ行くのか」で、次のように述べている。「権力政治家として人心収攬の天才であるプーチンは、リューリック王朝、ロマノフ王朝に遡るロシア人の民族的欲求としての領土拡大欲を熟知して」おり、「プーチン・ロシアの『力による現状変更』こそは、第二次世界大戦で世界の『民主主義』が敵とみなしたファシズムの常套手段だった」と。「プーチンのロシア」になっても、ソ連時代にチェコやアフガニスタンに侵攻していたころと、国家の本質は変わっていないのである。『力治政治』を旨とするプーチンは、2008年の南オセチア、2014年のクリミアを例にとればわかるように、領土を「奪う」ことはあっても「譲る」ことはない。
ロシアは「数多くの領土問題を平和的に解決してきた」と豪語するが、既に確立した占拠を解除して、領土を他国に移管したことは、一度もない。ロシアがバランスのとれた条件で領土問題の平和的解決に合意したのは、すべて「戦えば負ける」という困難な武力紛争の可能性が潜在していた場合だけである。ここで重要なのは、経済問題は判断材料に含まれていないということである。一部には「経済制裁を西側諸国と連携して強化することで、ロシアの妥協を引き出すことができる」という論調もある。しかし、経済制裁だけではいつまで経っても効果は出まい。ロシア人は敵に虐められた恨みを長く溜め込んでおり、それが「力治政治」の原点となってプーチンを支えているのである。
他方で、上にも述べたように、戦争で数多くの勝利と敗北を経験してきたロシア人は、軍事力の冷静な観察者でもある。ここで考えられる最もシンプルで強力な日本の対抗手段は、北海道において自衛隊の防衛力を飛躍的に向上させることである。欧州、クリミア、中東など世界各地に戦力を分散しているロシアにとっては、極東における軍事バランスの急激な変化はショッキングなメッセージとなろう。
そうなってくると、日本にとって考えられる対露大戦略とは、長い間粘り強く主張してきた「四島返還」の原則論を堅持しつつ、「日本との平和条約なしでは、損をするのはロシアである」と相手に思わせることであろう。そのためには、何よりも日本国内の考え方の足並みをそろえることが重要であろう。少なくとも日本という鴨が葱を背負ってモスクワに向かって「2+α」と鳴くことではない。いまこそ日本はその対露楽観主義を卒業しなければならない。(おわり)
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