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2007-04-05 00:00
「慰安婦決議案」をめぐる米国知日派の忠告の誤り
岡本幸治
大阪国際大学名誉教授
3月31日の産経新聞「正論」に、ジェームス・アワー氏が「米議会慰安婦決議案のナンセンス」というエッセイを寄せている。マイク・ホンダ下院議員の通そうとしている日本非難決議案について、「決議案は単に議員がある問題について述べる意見に過ぎない。決議案が通過したとしても新しい法律ができるわけではないし、何も起こらない」「ほとんどの下院議員は慰安婦問題についての詳しい知識を持っていない。最終的に決議案が採決されても、この問題について勉強する人はほとんどいないであろう」「一部のメディアがこの決議案を取り上げてはいるが、平均的な米国市民は関心もなく、決議案そのものについて知識を持ち合わせていない。採択されてもそのことを知ることさえないだろうということだ」などと指摘している。米議会の決議案は多くの日本人にとっておかしく見えるに違いないが、それは日本の国会議員が「牛歩戦術」を使うのを見て変に思う米国人がいるようなもので、「大切なのはともにあまり重要ではないということだ」「もし筆者が日本人なら、無駄に腹を立てないようにする」と述べている。
彼は米国の国防総省に勤務し、現在はある大学の日米研究協力センターの所長を務める知日派ないし親日派で、この問題で日米関係が悪化することを懸念しての発言と思われる。確かに毎年米国議会を通過する多くの決議案なるものは、議員が有権者や圧力団体に配慮して行うものであり、活動資金と支持票を確保するためのパーフォーマンスとみてよいものが多いようだ。しかし、ホンダの画策している「慰安婦非難決議」が、我が国会での「牛歩戦術」程度の意味しかもたないという説明には、ちょっと待って頂戴よ、と言わねばならない。議員の決議案が持つ政治的意味を出来るだけ過小評価して日本人を安心させ、対米感情の悪化を防ごうという彼なりの配慮と友情? は多とするが、それを牛歩戦術と同じようなものと言うのは、あまり粗雑に過ぎるのではござんせんか。
決定的に違うのは「牛歩戦術」がわが国会で法案通過を遅らせるためだけの内向きの戦術に過ぎず、まったく対外的意味を持たないのに対し、「慰安婦非難決議」はカリフォルニアの選挙区に多い反日韓国・中国人向けのリップサービスを超えた対外的・国際的意義を持ち、既にその効果が現れているという点である。米国ではニューヨ-クタイムズ、ロサンゼルスタイムズその他、欧州ではフランスのリベラシオン、オーストリアの主要日刊紙プレッセ等々、欧米の不勉強なメディアが不正確な事実認識に基づいて非難決議に同調し日本批判を展開している。それを知って、対日批判であれば何にでも飛びつく韓国のメディアは鬼の首を取ったように大喜びをし、改めて対日非難の好材料として活用しているのだ。高姿勢の対日批判で政権基盤の浮揚を図ってきた左巻きの韓国政府も早速それに乗っかかって対日外交カードに用いている。
それが日本国内にも波及し、外圧を利用して安倍政権批判を行いたい日本の左巻き勢力や朝日・毎日などのメディアだけでなく、自民党内で冷や飯を食っている反主流派までを勇気づけている。アワー氏にご忠告申し上げたい。外向けにこれほど大きな政治的効果を及ぼしている米下院の非難決議を、日本国内消費用の牛歩戦術と同一視するような判断は、失礼ながら老人ぼけの始まりではありませんか、と。しかし、これらの問題の根本が日本の政治家にあることは明らかである。外野席から政府批判をするしか能のない野党の抱えている問題はさておく。最大の問題は、政権党である自民党の持つ体質にある。外交面で波風を立てないために目先の妥協を重ねてきた「河野談話」の河野洋平や、教科書検定の基準として「近隣諸国条項」を導入した宮沢喜一はその例であり、これが長期的に見ていかに国益を損じているかは既に明らかになっている。
ところが、そのような問題点に気づきながら、前例踏襲により問題の先送りをする首相や閣僚しか生み出せなかったところに、敗戦後遺症から未だに脱却できない戦後日本政治の精神的課題が端的に現れている。「戦後体制の打破」を大胆に打ち出した安倍首相には大いに期待したいのであるが、日本を「美しい国」にするための対外手段として掲げた「主張する外交」は、慰安婦問題をめぐる今回の騒ぎにおいても十分に発揮されたとは言い難い。国家の尊厳に関わる問題に関しては、安易な妥協はしない。たとえ友好国であろうと、誤った判断に基づく政治家やメディアの問題点については徹底的に是正を主張するという強靱な姿勢なしに、精神的な「戦後体制の打破」の第一歩を踏み出せるはずがないのだ。
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