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2016-12-11 00:00
(連載2)プーチン訪日への期待値は下がった
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
この雰囲気が最近大きく変わった。今では日本のメディアもプーチンの硬い対日発言を報じている。一つ例を挙げよう。リマでの安倍・プーチン会談の後、11月20日にプーチンはリマでの記者会見で「1956年の文書(日ソ共同宣言)には、日本に2島が返還されるとされている。しかし、その後どちらの国の主権下にこの2島が置かれるのか、如何なる諸条件の下に引き渡されるのか、については述べられていない」と述べた。正常な思考力を有する者には理解不能としか言いようのない強硬論を、彼は平然と述べている。もちろん、面積で93%を占める国後、択捉の返還交渉は問題外との含みだ。この発言は今回、わが国の多くのメディアが報じた。この強硬姿勢のフレーズは、実は2012年3月1日に朝日新聞の若宮啓文主筆(故人)がプーチンと会って「ヒキワケ」発言を引き出した時も含めて、プーチンはこれまで何回も述べているのだが、当の朝日新聞も他のわが国のメディアもそれらを報じなかった。このプーチンの強硬な言葉は、2012年3月の「ヒキワケ」発言の時も直ちにロシア政府のサイトにロシア語で掲載されたので、以下紹介する。
「私たちは受入可能な妥協が必要である。何か『ヒキワケ』に類するものだ。私の同僚は『ヒキワケ』が意味する事を知っているはずだ。『どちらの勝利でもない』ということである。ソ連は、日本との長い交渉の末に、1956年に共同宣言に調印した。この宣言には、2島を平和条約締結後に引き渡す――ここに注目して欲しいのだが――と書かれている。つまり平和条約が意味することは、日本とソ連との間には、領土に関する他の諸要求は存在しないということだ。そこ(1956年宣言)には、2島が如何なる諸条件の下に引き渡されるのか、またその島がその後どちらの国の主権下に置かれるかについては、書かれていない。共同宣言が署名された後、これは日本の国会とソ連の最高会議で批准された。つまり、基本的にこの宣言は、法的効力を有するようになったのである」と。
プーチンが1956年宣言について両国国会での批准を強調しているのは、小さい2島の日本への返還を自国民に受け入れさせるためではなく、「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と日露が1993年に合意した東京宣言と区別して、後者を「法的効力がない」として無視するためである。これが詭弁であることは既に述べているので、繰り返さない。ここでは一例だけ挙げたが、そのほかにもプーチンの強硬発言で日本のメディアが報じていないものは少なくない。その結果、日本人のプーチン理解、ロシア理解は当然歪められてきた。そして最近になって、プーチンの別の側面を少し見せられて(以前から変わっていないのだが)、驚いたり、失望感を強めたりする、ということにもなったのだ。
筆者が懸念しているのは、単に一般国民の期待値が上がったり、失望感が生まれたりすることではない。強く懸念されるのは、わが国の首相官邸や政治家たちも、ロシアが求める経済・防衛面などでの対露協力を熱心に進めれば、平和条約問題も解決に近づくとの幻想を抱くことだ。また、主権侵害問題に対する日本の非常に甘い対露アプローチによって、日本が国際的信頼を失うこと、さらに尖閣問題その他の問題にも悪影響を及ぼすことである。長期的な視点から、また幅広い戦略的観点から、ロシアと様々な分野での協力関係を発展させることに異論はない。ただ、ロシアでは、経済の論理に基づくのではない、政治主導の経済プロジェクトは、経済的に破綻する場合がほとんどである。もし日本政府が対露経済協力のために国民の税金を使うとなれば、平和条約交渉と均衡を取るのが当然だ。政治主導ではなく経済界が、利益が見込めるがゆえに自らの資金とリスクで対露投資とか、対露経済協力を進めるのであれば、必要な時に政府は側面から支援すればよいのである。(おわり)
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