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2016-12-18 00:00
東アジア経済研究の基礎資料
池尾 愛子
早稲田大学教授
12月17日に私は、ある学会において「英文雑誌『オリエンタル・エコノミスト』の経済記事について:1930~50年代を中心に」と題する研究発表を行った。この雑誌は、石橋湛山が1934年に有償で創刊して1985年まで続いた雑誌で、特に戦後の東アジア経済研究に不可欠な資料であると思われるので、その部分を紹介させていただきたい。第1に、日本や東アジアの経済・貿易情報を冷静に発信する意義は大きかった。第2に、例外的に戦略的な社説もあった。例えば、1950年5月6日号に「アジアと日本」と題する社説がある。第1に、4月に開催された東京経済商業会議(アメリカ政府関係者のみ出席)では、日本を含む東アジアと東南アジアにおける地域貿易を振興することが重要であることで意見が一致した。そして、コミュニケに、極東の農業地域と工業地域の経済には補完的性格があり、地域内での貿易は大きく発展させうると述べられた。
ただ、東南アジア地域には英ポンド・ブロック等があり、この地域と日本を貿易で統合するには国際政治分野での相当の努力を要するであろうとされた。第2に、経済安定本部が占領軍司令部に要望書を提出した。貿易振興のための共通ファンドの設立、アメリカが認めたような東・東南アジアでの日本政府領事館の設置、貿易紛争処理のための国際委員会の設置、日本海運業の東・東南アジアへの定期航路の再建、関税措置において「最恵国」待遇の日本への賦与が盛り込まれた。これは、輸出入銀行設立、日本人の海外渡航緩和につながってゆく。上の社説では「何よりもまず、戦争状態を終え、平和条約を結び、日本の自立が必要とされる」と述べられたが、これは翌6月の朝鮮戦争勃発で先延ばしになる。しかし、国連アジア極東経済委員会(ECAFE、バンコク、現ESCAP)では、日本とECAFE加盟国との貿易協定が結ばれた。『ブルテン』(1950年第3季号)には、イギリスは日本との貿易を制限したいが、他の英連邦諸国(ポンド圏)は拡大したいこと、タイとは満足のゆく協定になったことが記されている。こうして日本と東南アジアとの貿易が再開されてゆくのである。
『オリエンタル・エコノミスト』に戻ると、1955年1月号には、日本の海外投資は戦後、1951年に始まったこと、そして企業別・受入国別の投資状況が技術協力の有無とともに記されている。国連加盟以前であるが、コロンボ・プランに参加することにより、東南アジア向けには技術援助・協力が「準賠償」の形を含めて進められていた。賠償が絡んだため、戦後の日本の海外投資の開始が早まったといえそうだ。戦後の日本経済の再建と、国際貿易・外国投資の展開には、「オール日本」の協力体制ができていて、『オリエンタル・エコノミスト』が日本情報発信のプラットフォームとなっていたといえるようだ。
1960年代後半から1970年代半ばにかけて、海外での経済活動はいわゆる「南北対立」のあおりを受けた。東南アジアでの日本の経験が最も苦かったのかもしれない。それでも、1973年6月の日本の経済5団体による「発展途上国に対する投資行動の指針」、1977年8月の「福田ドクトリン」の発表によって危機を乗り切り、1985年のプラザ合意以降、日本の外国投資・海外生産は著増した。1993年には世界銀行レポート『東アジアの奇跡』が公刊されたので、東アジア諸国が目覚ましい経済発展を遂げたことを知る人は多いであろう。海外生産・途上国の経済発展もグローバル化要因の一つであることは確かであり、貿易だけを見ていてもわからない可能性がある。
戦後、東アジアの途上国に対して、日本の技術援助、民間企業による直接投資(最初は合弁形態)が早い時期から行われていたことは、『オリエンタル・エコノミスト』を読めば、かなり詳細にその軌跡を追うことができる。如何せん日本国内で所蔵している大学図書館が極めて少ない。多分、異常に少ないといってもよいのではないか。戦前の諸号にも、海外からの寄稿があり、満州事変後の二国間貿易、満州国への懸念が記されている。また、「日本の不満(国際連盟・ワシントン会議の決議、アメリカでの人種差別、日本に対する貿易障壁)は日中戦争を終了させれば西側と協議可能であろう」(1940年1月号)、「イギリスの戦時体制はドイツ・日本より統制が少ない」「(イギリスの)勝利の産業的基礎は整っていて、我々は創造し破壊する力を持っている」(1941年1月号)とする寄稿も掲載された。専門家による検討の価値ありといえるのではないか。
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