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2016-12-20 00:00
アンチ・グローバリゼーションの加速する世界
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
来年は、いよいよトランプ米国大統領が動き出し、その影響が様々な形で世界に及ぶことになる。その一つが、アンチ・グローバリゼーションの加速だ。海外の生産拠点を国内に戻し、国内の空洞化を是正しようという動きは、米欧日各国ですでに始まっている。この動きが加速すると、安い人件費を武器に、生産拠点として発展してきた途上国は大打撃を受けることになる。トランプ氏が選挙キャンペーン中に、イスラム教徒を米国から閉め出し、メキシコとの国境には壁を作り、中国からの輸入品には一律45%の関税をかける、などと言い出したときには、随分仰天したものだが、その背景にある「国内産業の空洞化」に苦しむ米国の姿を見ると、彼の乱暴な言い分にも若干は納得がいく気がする。
1980年代末に米国で始まり、東西冷戦の終焉以降急速に拡がった、経済のグローバル化の結果、中国に代表される新興国経済が急成長する一方で、米欧日など先進諸国では国内産業の空洞化が進み、グローバル企業の経営幹部達が巨万の富を得る一方で、国の税収入は伸び悩み、一般大衆は職を失うか、低所得を余儀なくされる状態が生まれた。これに反発したのが、トランプ現象であり、英国のEU離脱であり、欧州各国での極右勢力の台頭であった。このような社会状況の中で、「海外生産の国内回帰」の動きはすでに始まっている。米国では、2015年に政府の後ろ盾で「Reshoring Initiative」(国内生産回帰運動)と呼ばれるNPOが設立され、企業に対して国内生産への回帰を呼びかけている。すでに、アップル、ゼネラルエレクトリック、ウオールマート、フォードモーターなどの有力企業が、その趣旨に賛同し、海外生産の一部を国内に移しつつある。日本でも同様な動きが静かに進んでおり、キャノン、パナソニック、ソニー、TDK、サントリーなどの企業が中国生産の一部をすでに日本に移している。
一旦海外に移した生産拠点を国内に戻すに当たって、どうしても乗り越えなければならないハードルが、国内での人手不足と高い人件費の問題だ。その答えのひとつとして注目されるのが、ロボットを使った「生産の自動化」だ。
今や産業のあらゆる分野でロボットが使われている。これまで手作業に頼らざるを得なかった衣料品の縫製にもロボットが導入され始めた。生地の裁断やボタン付けなどの単純作業は、すでに自動化されているが、異なる種類の生地をつなぎ合わせたり、生地の端を仕上げたりなど、現在は人手に頼っている作業の自動化も、実用化の一歩手前まで来ている。
ILO(国際労働機関)が2016年7月にASEAN諸国を対象に行った「生産自動化の労働市場への影響調査」では、縫製が自動化されると、ASEAN諸国で縫製業に携わる920万人の内70%に相当する640万人が職を失う、という予測結果が出た。中でも大きな痛手を被るのは、カンボジア、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、スリランカなど、縫製業以外に労働力を吸収する産業が限られている諸国だ。これからの数年間、我々先進国は、官民ともに、自国の空洞化是正の代償として、途上国の政情不安やテロなど治安の悪化への対処を迫られることになりそうだ。
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