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2007-04-06 00:00
思考の順序を改めるべき
田久保忠衛
杏林大学客員教授
昨年11月の米中間選挙で民主党が上下両院の過半数を制して以来、民主党によるブッシュ政権のイラク政策批判が高まり、それに呼応するかのように日本の各界で「あの戦いは誤りであった」との発言が目立ってきたように見受ける。
久間章生防衛相は同盟国の防衛に関する責任者という立場を忘れてしまったかのように、「(イラク戦争について)私は、『早まったんじゃないかな』という思いが、その時(開戦当時)もしていた。個人としては今でもそう思う」と発言した。物議をかもすかと思ったが、いまでも現職を続けているのだから与党の中にこの発言をもっともだと考えている向きが少なくないのかもしれない。民主党の小沢一郎党首は、イラク戦争が「ブッシュ政権のエゴイスティックな行動」と決めつけ、「米国の過ちを正していくためにも追随しないという決断が必要だ」と力説している。朝日新聞は3月31日付の社説で「日本はいまもこの戦争を正しかったと見ているのか。他国がイラクから部隊を引くなかで、なぜ日本は派遣を続けるのか。日米同盟が大事というのなら、米議会両院の多数が支持する撤退論をどう評価するのか」とたたみかけるような追求をしている。
大量破壊兵器(MDW)が見付からなかったという一点をとって、ブッシュ大統領のイラク攻撃は間違っていたと言えるのか。サダム・フセインはMDWを所持し、使用したこともある。生産の意図も能力もあったことは立証されている。国際テロリストとの関係はアルカイーダの幹部だったザルカウィがイラクでどのような行動の末生命を落としたかを見れば明らかだろう。昨年末に死刑を執行されたフセインを日本の一部新聞は英雄視してブッシュ政権を批判した。
ヒトラーに匹敵する残虐行為を行ったフセインは12年間にわたって17本の国連決議を拒否し続けた。決議を入れて武装解除していれば戦争は起こらなかった事実も忘れ、ブッシュ=悪、サダム=善などという漫画は米国の民主党系メディアもさすがに画いていない。上下両院の決議は撤退のメドをつけろというのが趣旨であって、自国の大統領が悪事を働いたとまでは踏み込めない。次期大統領候補として有力視されているクリントン上院議員もイラク攻撃には賛成していた。
ブッシュ政権はベトナム戦争に巻き込まれたときの米政権と同じであるといった俗論を散見するが、基本的な思考が欠けた無責任な印象批評が横行している。ロンドンの戦略国際問題研究所のマイケル・ハワード名誉会長が指摘しているように、(1)これは「戦争」なのか、(2)誰と誰が戦っているのか、(3)何のために争っているのか、(4)米国が手を引いたらどうなるのか――考えてみる必要がある。国と国が戦う戦争ではなく、米国などの多国籍軍は戦時国際法の適用を受けるが、国際テロリスト組織は適用外だ。宣戦布告も停戦協定もありえない、民主主義そのものに憎悪を抱く一部イスラム原理主義者たちが仕掛けた挑戦である。米国が手を引けばイラクではクルド族は独立に走り、スンニ派とシーア派は血みどろの戦いに入る。中東諸国も加わるとなると中東全域に動乱は広がる――などは理性があれば誰でも考えられる。
中東に90%の原油を依存している日本はいかに弱い存在か。民主主義への挑戦に対して日本は断固たる態度を取るべきではないのか。その次に、日米同盟の重要性を考慮するのが思考の順序ではないか。来年の米大統領選で共和党が敗北するとは限らない。共和党の政権が続いたときに、いまのような日本の風潮は信を失うだろうし、民主党政権になったら日米同盟はいまより強固になるとの保証はない。少なくとも軽佻浮薄な言論は慎むべきだ。
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