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2017-01-10 00:00
トランプ氏は「地獄」を再び見たいか?
鍋嶋 敬三
評論家
酉年の2017年は「騒がしい年」らしく始まった。危機の時代の幕開けである。米調査会社ユーラシア・グループの報告書「トップ・リスク2017」の第1位はトランプ次期大統領の米国であった。「我々は2017年、地政学的不況の時代に入った」として、第二次大戦後最も不安定な政治的リスクの年として、国際的な安全保障と経済構造の弱体化、大国間の不信の深刻化を予測した。そこに飛び込んだのが新たなトランプ発言である。トヨタ自動車のメキシコ新工場建設計画について「だめだ(NO WAY!)。米国に工場を作れ。そうでなければ高い関税を払え」とツイートした。トヨタが219億ドルを投じて全米10カ所の拠点を持ち、130万台を生産、13万6000人を雇用している実態を無視しているのだ。1990年代の日米自動車摩擦で「地獄を見た」悪夢が再現される予兆である。
1980~90年代、日本から鉄鋼、自動車の対米輸出を巡る摩擦は熾烈を極めた。その背景にある米基幹産業の衰退はラストベルト(さびれた地域)としてトランプ氏逆転勝利の基盤となった。1993年1月のクリントン政権(民主党)発足後、本格化した自動車と同部品の輸出を巡る日米交渉は、米国が通商法に基づく「制裁」の発動を脅しに貿易戦争寸前に追い込んだ。当時、交渉の前面に立たされた栗山尚一駐米大使はW.モンデール駐日大使(元副大統領)が後日、「『日米は崖っぷちに立って、下に地獄を見た』との感想を私に漏らした。私も同感だった」と回想している(「日米同盟 漂流からの脱却」1997年刊)。1994年2月には日米経済の包括協議を巡り細川護煕首相とクリントン大統領の首脳会談が決裂。栗山大使は「共通の目標を失って、漂流状態に」陥った日米関係のもろさを嘆いた。
トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱とともに、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉も主張しており、企業の進出計画に与える影響は計り知れない。20年以上前に栗山氏がNAFTAに注目したことが2点ある。第一に米国の保護主義、ナショナリズムの強さである。労働組合を支持基盤とする民主党だけでなく、自由貿易派が多い共和党にも広がり、「メキシコ脅威論」に発展した。第二に日本企業がNAFTA を利用して対米輸出の拡大を狙うとする「日本脅威論の復活」。トランプ氏の発想の源は四半世紀前の「日本脅威論」の再復活である。1980年代のバブル期にジャパン・マネーが米国を席巻し、ニューヨークのシンボルであるロックフェラー・センターの買収など、トランプ氏の足元が脅かされたという強烈な感情が根底にはあるようだ。栗山大使はウォール街からクリントン政権に参加した高官との対話から「日本とのビジネス体験がある人ほど日本に厳しい傾向があると思うようになった」との感想を漏らした。
トランプ次期政権の経済、通商担当にはビジネス界出身者が多用されている。通商政策の司令塔になる新設の「国家通商会議」担当の大統領補佐官に起用されたP.ナバロ氏は対中強硬派で知られる。W.ロス商務長官やR.ライトハウザー通商代表(USTR)は日本と関わりが深い。米鉄鋼業界と近いライトハウザー氏は80年代の日米鉄鋼紛争で日本を輸出自主規制に追い込んだ強者である。1月20日に就任するトランプ次期大統領の「米国第一主義」の前に、ビッグ3のフォードはメキシコへの自動車工場新設計画を撤回。一方、ゼネラル・モーターズ(GM)はメキシコでの生産を維持する方針だ。トランプ氏の「核心的利益」が「米国第一」である以上、外国の利益を損ねても米国の利益を最優先するため、管理貿易に走る危険は大である。保護主義が強まり多国間自由貿易体制の危機が迫る。米国人は「やる」と言ったら本気でやる傾向が強い。自らあおったポピュリズム(大衆迎合主義)がナショナリズムを高揚させ、それが政権の柔軟な発想と政策立案の手足を縛る悪循環はNO WAY!である。
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