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2017-01-24 00:00
日欧協調して対米同盟を確認し、突破口を開け
杉浦 正章
政治評論家
衆院本会議前に「首相は外交安保を得意分野だと思っている。そこからほころびが生ずる」と漏らして、民進党幹事長・野田佳彦が本会議の代表質問に臨んだ。たしかに切り口は鋭かったが、ほころびを見出すまでには至らなかった。なぜほころばないかと言えば、野田発言にはことを政争の具にしたいという下心があり、「トランプ問題を長期的世界観から俯瞰すべき時」という決定的要素に欠けていたからだ。英独など主要国首脳が、首相・安倍晋三と同様に安全保障重視の姿勢からトランプを説得にかかろうとしている。この流れは自由主義諸国にとって不可欠なものだ。日本は日米安保条約重視、欧州は北大西洋条約機構(NATO)重視でロシア、中国の野望を食い止める必要があるのだ。この線でトランプを説得し、同盟を再確認すべきである。まずこの突破口ができれば、自由貿易も経済問題もそれほど難しいものではない。
野田質問の鋭い部分を挙げれば、「TPPでトランプ氏を説得出来るというなら、説得出来るという根拠を示せ」「トランプを信頼すべき指導者と述べたが、変わっていないか」の部分であろう。安倍の答弁はTPPについて「戦略的、経済的意義について腰を据えて理解を求める」と長期戦で取り組む構えを打ち出した。TPPは今後米国の変化を待つか、米国抜きで推進するかの選択を迫られる。オーストラリア首相のターンブルは1月23日、安倍に電話して「米国抜きでのTPP発効」について打診しており、いずれにしても野田の「もう無理」との考えは時期尚早だ。「信頼すべき指導者」発言への野田の疑問提示について、安倍は「信頼できる指導者であると確信が持てる会談であり、この考えは現在も変わっていない」と突っぱねた。これは政治感覚の問題であり、野田がさらに予算委などで追及するに値する問題だ。ただし米国民の過半数は安倍と逆の感情を抱いており、一国のリーダーとして今後トランプにサービスしすぎると、将来にわたって禍根を残すだけでなく、世界的に「ごますり首相」とされかねないから、注意が必要だろう。トランプにそれほどの義理はない。
焦点の安保問題について、安倍は「日米は自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値の絆で固く結ばれた揺るぎない同盟国だ。できるだけ早期に会談し、信頼関係のもとに揺るぎない日米同盟の絆をさらに強化していきたい」と言明したが、この発言は物事を長期的なスパンでとらえている。1951年に締結された日米同盟の絆は、無知蒙昧な大統領が出現しようがしまいが、変化するものではなく、変化させてはならないものの中核である。なぜなら、南シナ海や台湾を「核心的利益」と位置づけ、東シナ海でも臆面もなく膨張政策を維持する中国と、大ロシア主義で領土を拡張し続けるロシアの存在は、地球規模で見ても、看過できないものである。両国との対峙が極東と欧州でぐらつけば、喜ぶのは習近平とプーチンだけであろう。
この点で、トランプに「NATOは古い」と批判された欧州諸国の首脳の発言を分析すれば、英国首相メイは「イギリスとアメリカが築いてきた特別な関係は、自由や民主主義、利益といった価値観に基づくものだ。我々は現在も、そしてこれからも貿易や安全保障の分野で強力なパートナーであり続けるだろう」と発言している。移民政策をトランプに批判されたドイツ首相メルケルも「ドイツとアメリカを結びつけているのは、民主主義、自由、そして法律と人の尊厳を大事にする価値観だ。次期アメリカ大統領とは、このような価値観に基づいて緊密に連携したい」と発言している。両者の発言は安倍の発言と軌を一にしており、日米独のこの姿勢は、5月のシチリア・サミットに向けて、トランプの説得材料になる。もっともメイはトランプの下品な女性蔑視発言について「女性に関するトランプ氏の発言には受け入れられないものがある。今後そうした発言があれば、ためらわずトランプ氏に指摘する」と強調しており、是々非々の姿勢ではある。
欧州では、仏大統領オランドが「トランプ氏の行動には吐き気がする」と言っていたが、当選すると「アメリカ国民は、ドナルド・トランプ氏を選んだ。トランプ氏を祝福する」と変化した。筋が通っているのは、メキシコの大統領ニエトの発言だ。ニエトは「壁に対する費用は払うつもりはないと」反発しただけではなく、「ムッソリーニやヒトラーはトランプ氏のような手法で台頭し、人間社会が経済危機後に経験していた状況や問題につけこんだ」と発言し、警鐘を鳴らした。大国に対しても自国のために言うべきは言うという姿勢は、好感が持てる。31日にもトランプと会談する方向で調整中だ。こうした情勢の下で、日本がどう動くべきかだが、安倍・トランプ会談は早いにこしたことはない。しかし、安倍が「様々なレベルで議論してゆきたい」と答弁しているとおり、外交は首脳外交ばかりではない。国務長官ティラーソンや国防長官マティスらは、議会での証言を見ても常識的な閣僚であろう。閣僚や自民党幹部が首脳会談に先行して訪米するのもいいだろう。政権移行チームへの事務当局同士の接触も頻繁に行うべきだ。こうした総合的な外交を通じて、安倍のいう「主張すべきは主張する」姿勢を貫けばよい。多国間で巻き狩りのように連携を取りトランプを翻意させるのだ。
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