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2017-01-26 00:00
増大するフィリピン沖海賊のリスク
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
2016年秋頃から、フィリピンのミンダナオ島とマレーシアのサバ州の間にあるスールー諸島周辺海域で、身代金目的の海賊リスクが高まっている。この海域では、同年上旬から航行船舶を乗っ取り、乗組員を拉致した上で身代金を要求する、という海上誘拐(Maritime Kidnap)が多発している。当初は漁船やタグボートなど低速で乾舷(満載喫水線から上甲板の舷側までの高さ)が低い船が標的だったが、10月以降、大型外航船舶も標的となっている。最初に被害に遭ったのは、韓国籍の重量物運搬船「DONG BANG GIANT No.2」(11,391総トン)だ。2016年10月20日、フィリピン南部スールー諸島とボルネオ島に挟まれたシブツ海峡を航行中の本船に、高速艇で接近したアブサヤフを名乗る10人の武装集団が乗り込み、韓国人船長とフィリピン人乗組員1人を拉致して逃走した。
事件発生から約3カ月後の17年1月14日、韓国船主とアブサヤフとの間での交渉が決着し、拘束されていた2人の乗組員はスールー諸島のホロ島で解放された。交渉の仲介をしたのは、1996年の和平までは反政府武装組織だったモロ民族解放戦線(MNLF)だったといわれている。身代金の支払いについて関係者は口をつぐんでいる。フィリピンの反政府イスラム武装組織アブサヤフはスールー諸島とミンダナオ島のザンボアンガ半島などを拠点として、誘拐、爆弾テロなどのゲリラ活動を展開。2014年からイスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」との交流が始まり、米国政府は2016年4月以降、ミンダナオ島がISの戦闘員募集と訓練の拠点となったと考えている。構成員は500人前後と多くはないが、2016年に入ってから爆弾テロや誘拐などの活動が活発化している。
かれらは、同年上半期だけで少なくとも730万米ドル相当の身代金収入を得たと見られる。ドゥテルテ大統領の就任以降、フィリピン軍の攻勢が強まったことから、誘拐の多くは海岸近くや海上で実行されている。2016年10月の韓国船の被害に続き、11月11日にはベトナム船籍のばら積み船「ROYAL 16」(2,999総トン)がバシラン島の東北東約18キロの海上で高速艇に乗った武装集団の襲撃を受け、船長を含む乗組員6人が拉致された。同じ月、マレーシアのサバ州沖を航行中のドイツ船籍のヨット「ROCKALL」がアブサヤフの武装集団に襲われ、乗っていたドイツ人カップルのうち女性はその場で射殺、船長のユーゲン・カントナー氏は拉致された。現地報道によれば、1,000万米ドルの身代金が要求されているとのこと。
襲撃は日本関係船にも及んでいる。11月12 日、セレベス海を航行中の三翔海運所属のケミカルタンカー「SOUTHERN FALCON」(5,551総トン)が高速艇に乗った武装集団の襲撃を受けたが、本船側の回避操船により撃退に成功。同20日には、タウィタウィ島北方のスールー海を航行中のくみあい船舶所属の大型ばら積み船「KUMIAI SHANGANG」(93,160総トン)に高速艇で接近した武装集団が発砲、乗っ取りを試みたが、本船側の回避操船により乗っ取りをあきらめ逃走。アブサヤフによる海上誘拐は、ソマリア海賊のものと一見似ているようだが、2つの点で大きく異なっている。その一つは、アブサヤフは身代金の支払いを拒むと躊躇なく人質を殺害する点だ。ソマリア海賊は意図的に人質を殺すことはしていない。もう一つは、テロ組織であるアブサヤフに対する身代金支払いが、フィリピン、米国、日本など主要国政府により禁止されていることだ。これらの理由により、もしこの海域で日本関係船の乗組員が誘拐された場合、対応には相当な困難が予想される。
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