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2017-01-31 00:00
「米国第一主義」が生み出す世界秩序の空白
鍋嶋 敬三
評論家
米国のトランプ新政権の発足(1月20日)で、理念なき「力ずくの外交」が始まった。議会承認の必要がない大統領令の連発、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、中国、日本、メキシコなどの対米貿易黒字の批判である。メキシコ国境に壁を建設し、中東諸国からの移民入国を禁止するなどの排外主義をあからさまに示した。イスラム圏出身者の入国禁止に人種主義のにおいをかぎ取る人も少なくあるまい。米国自身が欧州とともに築いてきた民主主義、自由主義的な経済通商政策に基づく国際秩序を自ら壊す動きである。「トランプの米国」による「世界秩序の空白」からは何が生まれるのか?米国に代わりうる力のある国家は世界に存在しない。軍事的、経済的、政治的にも秩序の形成能力を持ち得ないからだ。先の見えない混乱の時代に突入するだろう。力の空白に乗じて、米国主導の世界秩序に不満たらたらだった中国、ロシアやイスラム過激派(IS)などの新興勢力が地域に浸透するだろう。
トランプ大統領の出現を3ヶ月前までに予想した有力者はいなかった。「トランプ現象」はアメリカ民主主義の「鬼子」であるとは言えない。有権者の半分が支持した事実がある。「トランプ現象」は、労働組合を含めたワシントン・エスタブリッシュメントが社会に沈殿した不満をすくい上げることに失敗した結果である。ベトナム戦争は遠い昔としても、イラク、アフガニスタン戦争、先の見えないテロとの戦い、リーマン・ショックなどの金融不況に疲弊しきった米国民は、「世界を指導する米国」よりは「自分たちの米国」を求めたのだ。「ミーイズムの世界」である。
ワシントンのブルッキングス研究所のR.ケーガン上級フェローは新政権発足後の論文で「トランプ氏の当選は米国が作ってきたリベラルな世界秩序を米国の大多数がもはや支持したくないとするシグナル」と分析した。この世界秩序は、米国の意思、能力、一貫性に依存してきたが、世界に果たす役割に必要なコストと困難を引き受ける国民の忍耐が「すり切れてしまった」のだ。トランプ流の「米国第一主義」は、米国の利益を「狭いレンズ」を通して見ることを求める。この結果、「同盟関係を支持する」とか、「長期的利益のため開かれた経済秩序を支持し、維持する」などは、もはや認めないというのだ。
「米国第一主義」の副作用はこれから広がっていくだろう。多国間協調主義から二国間直接貿易交渉へ強者の論理がまかり通る。同盟関係も、より大きな負担が前提だ。米国による世界的指導力の放棄は世界の不安定の根源になる。そのこと自体が新たな秩序への序曲になれば、唯一の大国を欠いた世界の行方は混沌とするだろう。トランプ氏は「壊し屋」であるが、それに代わる新たな世界像は全く示していない。一般教書など三大教書でどれだけ説得力のある構想を外交、安全保障、経済運営について打ち出すのか、これも未知数である。安倍晋三首相は2月10日、トランプ氏と初の首脳会談を行う。自動車などの貿易問題と安全保障問題が焦点である。日米関係が日本外交の基軸であることには変わりはない。しかし、日米両国を取り巻く戦略環境はがらりと変わった。変えた主役は米国である。安倍首相は地殻変動を始めた世界の入り口に立って、その「地球儀俯瞰外交」戦略を立て直さなければならない。
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