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2017-02-07 00:00
トランプリスクには実利をもって当たるべし
四方 立夫
エコノミスト
最近の日本のメディアでは「トランプはビジネスマン故、高めの牽制球を投げて徐々に落とし所を探っていく」との論調が目立っているが、「トランプ流=ビジネス流」との見方には長年ビジネスの世界に身を置いてきた者として違和感を覚える。現在の一流のビジネスにおいては、”Fact Finding”と ”Due Diligence”を重んじつつ、相手との相互利益を図り、社会的責任を果たすのが正道である。これに対しトランプは、自分の聞きたくない事は自国の諜報機関からのブリーフィングさえも拒否し、国家情報長官をNSCの常任メンバーから外し、同盟国の国家元首に対しても暴言を吐いて電話を一方的に切る、など大統領としてはもちろん、ビジネスパースンとしても”Temperament”に問題があると言わざるを得ない。それは同氏が裕福な家庭に生まれ、親の不動産業を引き継ぎ、投機性の高いファミリービジネスとして独裁的に運営してきた経験によるものであるかもしれない。
日本に対する在日米軍経費負担の不公平、円安誘導、輸入障壁などの批判は、いずれも事実無根であり、このような人物に対し「道理」をもってその過ちを正そうとしても、感情的な反発を招くだけであろう。あくまでも「実利」をもってなにがトランプ自身にとって、そして米国民にとって有益であるかを具体的に目に見える形で説き、同氏が「自分の手柄」として国内でアピールできるように導くことが肝要である。安全保障に関しては、日本が既に安保法制を成立させ、集団的自衛権の部分的行使が可能となり、中期防衛力整備計画により防衛費も毎年増加させていることを説明すべきである。マティス国防長官の訪日を踏まえ抑止力と対処力を一層強化し、積極的平和主義に基きアジアの平和と安全に貢献し、SM3ブロック2Aのように日米で共同開発を推進する、などを具体例として上げることが有効である。
経済関係に関しても、トランプの減税及び規制緩和策によりトヨタによる米国への大型投資が推進され、米国の雇用拡大に貢献する、又、ホンダとGMによる燃料電池車の共同開発により米国自動車メーカーにとってもメリットがあることなども、良い例である。大統領令による移民規制に対し連邦控訴裁判所が政府の上訴を却下したが、今後ともトランプ政権が続く限り国内外の混乱は避けられず、一方、現在でも半数近くの米国民がトランプを支持していることから、問題はトランプ個人にあるというよりは、多くの米国民の怒りの象徴としてトランプがある、ということである。
もはや米国はオバマ大統領が明言したごとく「世界の警察官ではない」のが実態であり、我が国としても今後とも米国を最重要同盟国としながらも、同国に過度に安全保障を依存することなく、”Equal Partners”として自立の道を目指していくことが喫緊の課題である。又、少なくともトランプ政権が続く限り、同政権に対しては「自由と民主主義という共通の価値観」よりも「共通の利益」を有する相手として対峙し、「トランプ・リスク」を乗り切っていかなければならない。
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