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2017-02-09 00:00
日米首脳会談の“陰の主役”は中国
杉浦 正章
政治評論家
2月10日の日米首脳会談の“陰の主役”はどう見ても中国だ。トランプ側近らの対中強硬発言はただ事ではない。対中戦争を公然と口にしてはばからない。来日した国防長官ジェームス・マティスは“狂犬”と呼ばれる紳士だが、ホワイトハウス側は“極右の火炎放射器”スティーブン・バノンを始め“対中主戦論者”が占めている。トランプは今のところその主戦論に乗っているかに見える。対ソ冷戦における“極東の番犬”と日本を位置づけ岸信介を安保改定に駆り立てたのはアイゼンハワーだが、同じドイツ系移民の子孫トランプも首相・安倍晋三をけしかけ、日米同盟を対中牽制色の強いものとするだろう。その思惑にどこまで安倍が乗るかだが、中国と北朝鮮を意識した場合、懸念の共有は当然であり、東・南シナ海をにらんだ対中抑止力の強化での一致は確定的であろう。誤解を避けるためにマティスの日米安保に関する姿勢を分析すれば、きわめて落ち着いたものだ。記者会見で「外交官による解決がベストであり、今のところ劇的な軍事行動をとる予定はない」と対中戦には否定的だ。しかし「中国は南シナ海で、この地域の国々の信頼を引き裂いた」と批判、オバマの「航行の自由作戦」を引き継ぐ考えを強調した。また北朝鮮に関しては「アメリカと同盟国に対するあらゆる攻撃は撃退され、あらゆる核兵器の使用も圧倒的な攻撃に遭う」と、強い牽制色を打ち出している。
威勢がよいのはホワイトハウス側だ。まずバノンは「米国が5年から10年の間に南シナ海で戦争をすることになると思わないか」と発言した。5年から10年とは遠い先のことで、トランプ政権がまだ続いているかどうかは分からない。しかし、南シナ海での戦争に直接言及した大統領側近は初めてであり、いかにもダイナミックな構想を抱いているかのようである。中国がパラセル諸島、スプラトリー諸島にに続いて最後のとりでとして狙っているフィリピン沖のスカボロー礁の軍事基地化に乗り出せば、トランプは黙っていないだろう。バノンと双璧をなすのが反中国のばりばりで大統領補佐官のピーター・ナバロだ。外交専門誌「フォーリン・ポリシー」で、南シナ海におけるオバマの無策が中国の進出を許した点を強調「アジアの同盟国を支援するためレーガン政権時代の『力による平和構築』に回帰すべき」と主張している。さらに目をみはるのは、著書『米中もし戦わば-戦争の地政学』で、「世界史を概観すると、1500年以降、中国のような新興勢力がアメリカのような既存の大国に対峙した15例のうち11例において 戦争が起きている」と分析、超大国と新興大国の激突は避けられないとの見通しを述べている。またナバロは「歴史を振り返って分かることは、中国共産党が政権獲得以来60年以上にわたって武力侵略と暴力行為を繰り返してきたという事実である」と看破。チベットやウイグル、中ソ国境紛争、台湾海峡危機、沖縄県・閣諸島をめぐる日中の緊張などを紹介した上で、軍事力など「力による平和」で日本などの同盟国を守る必要を訴えている。トランプと台湾総統蔡英文との電話会談を実現させ、トランプに「一つの中国」政策の見直しを示唆させたのもナバロであるようだ。怒り心頭に発した中国が厳重抗議したのは言うまでもない。
中国側はこれらの発言に関して外務省報道官が「一つの中国の原則は中米関係の政治的基礎であり、交渉は不可能だ」と発言。英字紙チャイナ・デイリーは「トランプ氏が一つの中国の見直し発言を繰り返すなら、中国は本気で立ち向かう」と警告している。しかし習近平以下首脳らは「唖然(あぜん)」として見守っているかどうかは別として、一切沈黙を守っている。まだ、トランプ独特のディールの可能性があると見ているようでもある。トランプが中国がもっともいらだつ問題をあえて取り上げるのは、貿易、為替などで成果を勝ち取るためのディールであるという判断があるのではないか。事実、中国側が怒れば怒るほどディールは成功へと導かれるのであり、商売人トランプの真価はここで発揮されるというわけだ。米国の貿易赤字の47.3%が中国に対するものであり、日本は8.4%で5分の1にすぎない。「貿易赤字が二番になった」と日本のマスコミや経済界が騒いでいるが、トランプの最大のターゲットは中国にあると見ておいた方がよい。
しかし、ディールとだけ軽々に判断することは、読みを間違えるかもしれない。トランプの対中包囲網作りは並大抵ではない。就任前後から欧州諸国首脳やプーチン、蔡英文らとの電話会談などを繰り返しているが、中国とは何の接触もしない。これは無言の対中包囲網へと動いていると見ることが可能だ。中国首脳はひしひしと無言の重圧感を感じているはずだ。そしてトランプは安倍との会談にその流れを収れんしようとしているのだ。英国首相のメイ、ヨルダン国王のアブドラに次いで3人目の首脳会談だが、その厚遇ぶりはゴルフ会談が象徴しているように並大抵ではない。丸2日の会談は、明らかにメイを大きく上回る待遇だ。この安倍への大接近は、確実に対中戦略での安倍取り込みにある。米戦略は祖父岸を冷戦で取り込み、孫の安倍を対中戦略で取り込むというわけだ。その危険性を左翼や一部マスコミは指摘するが、中国の軍事大国としての膨張路線の方がもっと危険で現実味がある。日米が親密に結託して初めて抑制できることは言をまたない。北の核ミサイルを事実上容認し、野放しにしている中国の戦略に対抗するためにも日米同盟強化は不可欠の流れであろう。
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