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2017-02-13 00:00
歴史的な転機を迎えた日米同盟関係
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領の首脳会談(2月10日)は戦後70年の日米関係史の上でも画期的な出来事として記録されるだろう。それはアジアを中心に国際秩序が大きく変動し始めたこの時期に、安全保障、経済・貿易政策を巡る日米同盟関係の強化が、21世紀の国際秩序のベースになる可能性を示唆しているからである。首相への破格の厚遇に世界も注目した。トランプ政権に影響力のあるシンクタンク、ハドソン研究所のK.ワインスタイン会長とA.ハーマン上級フェローは最近の論文で、日米間に新しい「特別な関係」へ発展の可能性があることを指摘した。
言うまでもなく、「特別な関係(Special Relationship)」は米英間の歴史的な関係を指す政治用語であり、「共通の価値と利益を有する二国間の歴史的な結び付き」を示すものと定義されている。英国のチャーチル首相が第二次世界大戦後の1945年11月に原子爆弾に関連してこの言葉を使い、さらに翌年3月の有名な「鉄のカーテン」演説でも英連邦と米国との「兄弟のような関係」を表す言葉として言及した。トランプ氏は安倍首相との共同記者会見の席上、「とても良い絆ができ、とても相性が良い」と述べ、首相との信頼関係が深まったことを明言した。首脳会談の主要テーマである安全保障では、尖閣諸島への日米安全保障条約第5条(米国による日本防衛義務)適用の明記など、日本側から見れば100点満点の成果である。北朝鮮は12日、トランプ政権になって初の弾道ミサイルを発射、その挑発行為に対してトランプ大統領は「日本を100%支持する」と言明した。
安倍首相の強みは、(1)積極的平和主義の旗を掲げ、安全保障法制を成立させ、日米安保協力の強化を推進し、(2)フィリピンの対米「反抗」などでほころびかけているアジア太平洋地域の安全保障環境を立て直す外交努力を積極的に進め、(3)環太平洋連携協定(TPP)で最も難しかった対米交渉を土壇場でまとめて12カ国の合意に持ち込み、日本が最初の批准国になったことである。主要国(G7)ではドイツのメルケル首相に次ぐ古参首脳であり、米欧間に冷たい風が吹く中、政治、外交経験が全くないトランプ氏は、国際経験豊かな安倍首相に耳を傾けざるを得ない。安倍首相にとっても、トランプ氏との間で築いた信頼関係は対中国、北朝鮮外交で強い武器になる。
日本の安全保障を確実にする上で、日本はその防衛費の対国内総生産(GDP)比1%を北大西洋条約機構(NATO)が目標とする2%に近づけるための長期的な努力を始めなければならない。それが米国のアジア太平洋における前進展開能力の向上、日本に対する核を含めた拡大抑止力の強化につながる。日本はアジア太平洋地域で「自由かつルールに基づいた公正なマーケットを日米両国のリーダーシップの下で作る」(安倍首相)ことをトランプ氏と合意した。首相はTPPからの離脱を宣言したトランプ氏にTPPの意義を説き、多国間協調の重要性を世界に向けても示した。しかし、トランプ氏は共同会見でも持論を展開し、通貨の切り下げに「不満」をぶつけ、貿易でも「公平」を4回も繰り返した。
米国内では自動車産業や農畜産業界をはじめ対日市場開放の要求は根強く、トランプ政権の誕生で勢いが増している。トランプ氏が会見でフォードやゼネラル・モーターズ(GM)の名を挙げたのは強烈な対日要求を突きつけてくる布石であろう。中国についても日米首脳会談の前日に習近平国家主席との電話会談を受け入れ、「一つの中国」の原則を踏襲した。トランプ氏は「とても温かい話し合い」「これからも(中国と)うまくやっていける」と述べ、中国への配慮を見せた。トランプ大統領は「アメリカ第一主義」の旗を立て、政策の混乱を露呈している。超大国としての指導力を発揮できるかどうかは未知数である。日本の日米同盟強化によるサポートでそれができるようになれば、日米関係は「特別な関係」に一歩近づくことが可能かもしれない。
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