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2017-02-14 00:00
(連載2)トランプ政権によって人権問題の劣等生となったアメリカ
河村 洋
外交評論家
さらにトランプ氏の人権に対する問題意識の低さは、拷問がテロ容疑者からの情報収集に効果的だといった不用意な発言に端的に表れている。しかしトランプ氏がジェームズ・マティス退役海兵隊大将に国防長官主任を要請した際には自らの主張を撤回し、信頼と報酬が容疑者を協力的にするのだというマティス氏の主張を受け入れた。しかしトランプ氏は再び拷問の復活を唱えて議会を紛糾させ、ジョン・マケイン上院議員は大統領なら法を遵守するようにと要求した。トランプ氏は米英首脳会談の記者会見ではマティス氏の助言に従うと述べたものの、そのことからトランプ氏が人権に関してほとんど学んだことがないばかりか、絶望的な無知であることが明らかになった。
レックス・ティラーソン氏の国務長官起用も懸念材料である。元エクソン・モービル最高経営責任者のティラーソン氏の経営能力と交渉力に期待する声もある。しかし公務は利潤追求ほど単純ではない。上院外交委員会の公聴会では、ティラーソン氏はISISなどアメリカ外交の重要課題についての知識に乏しいことが露呈した。さらにロシアとの関係にまつわる疑惑に加え、ティラーソン氏の人権に対する問題意識の低さは国務長官の職責には非常に不利に働きかねない。公聴会において。ティラーソン氏はサウジアラビアの女性の権利、シリアでのR2P、フィリピンでのドゥテルテ政権による抑圧政策といった重要な人権問題には満足な答弁ができなかった。ドナルド・トランプ氏の思慮分別を描いた中傷は、人権に関する認識がまるでなっていないことを示している。公聴会での答弁のまずさを考慮すれば、ティラーソン氏がトランプ氏の酷い欠点を補えるとは考えにくい。
国際社会、特に西側同盟は、このようなトランプ政権のアメリカにはどう対処すべきだろうか?我々はトランプ氏のアメリカ第一主義が完全に競争本位で無秩序な世界での適者生存の考え方に基づいていることに留意しなければならない。トランプ氏はそうした無秩序を利用して自らが考えるアメリカの国益を最大化しようと考えているので、いかなる手段によっても現行の国際規範や多国間の枠組みを弱体化しようとしている。トランプ氏がそこまで人権を軽視するのも何ら不思議ではない。『シュピーゲル』誌の1月20日付けの論説では西側民主主義国がトランプ政権に対抗して結束し、国際規範と普遍的なかち価値観を守るようにと力説している。我々はこのようにして人権の重要性を再確認できる。また民主主義諸国の指導者達はアメリカの中に影響力を確保する経路を模索する必要がある。何よりも、トランプ氏とアメリカを同一視してはならない。イギリスのテレーザ・メイ首相はホワイトハウス訪問に当たってトランプ政権との強固な関係構築にとらわれていた。しかしイスラム教徒入国禁止への反応が鈍かったことで、イギリス国内ではトランプ氏への追従が過ぎると厳しい批判の声が挙がった。別にトランプ氏との衝突を推奨するわけではないが、この人物の大統領としての資質と正当性が非常に貧弱なことは銘記しなければならない。
トランプ氏は第二次大戦終結以来米国で最も不人気な大統領であるばかりか、ヒラリー・クリントン氏より総得票が300万票も少ないという点で、前例がないほど正統性を欠く指導者なのである。いわば、彼のことをゲリマンダーの大統領と見なすこともできるのである。民主主義の政治家としては、トランプ氏はまるで訓練がされていない。メディアと司法に対する侮辱はその最たるものだ。彼は権力分立も法の支配もほとんど理解していない。トランプ氏には追従するよりも、民主主義諸国は彼の理不尽な圧力からみずからを守るためにもアメリカの中にファイアウォールを持つべきである。例を挙げれば、ジョン・マケイン上院議員はトランプ氏の暴言からオーストラリアを擁護した。またジェームズ・マティス国防長官は国家安全保障関係者の主流派の声を代表するためにトランプ政権に加わっているのである。(おわり)
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