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2007-04-13 00:00
連載投稿(2)人材養成で遅れをとる日本の大学教育
鈴木智弘
信州大学経営大学院教授
筆者は、現在、信州大学の社会人向け大学院である「経営大学院」に勤務し、その責任者を4年前から務めているが、1980年代後半は米国の投資銀行に勤務し、ブラックマンデー、バブルを経験した。90年代から学界に入り、十数年余り、複数の国立大学で勤務してきた。大学では、経営戦略論、組織論、人的資源管理論などを担当し、わが国と諸外国(米国、欧州そしてアジア諸国)のガバナンス、人事・組織そして企業連携などを研究している。研究の性格上、ほぼ毎年、海外調査を続けているが、特に、中国については、学部学生時代から二十年余り継続調査してきた。また、大学院及び学士課程において、中国、台湾、マレーシアなどのアジアからの留学生20名余りをゼミナールで指導し、清華大学(北京)、同済大学(上海)との研究交流、学生交流を行ってきた。また、卒業後も母国などで活躍する卒業生からの定期的な情報提供も重要な研究データとしている。
金融界、大学などでの勤務や研究を通じ、わが国の大学間だけでなく、国家間で「人材養成競争」が激化していることを痛感している。筆者の職場も、当事者のひとつであり、特に3年前の国立大学の法人化以降、大きな変化をしている。筆者が、経営大学院の新設を準備したのは、小泉内閣の「骨太の方針」を目にし、大学の役割を大きく転換させなければ、社会的な存在意義がなくなると考えたからである。信州大学経営大学院は、「技術の分かる経営者」「経営・マーケティングの分かる技術者」の養成を目指し、信州大学における社会科学系と工学系のJVとして、2003年に学部教育から切り離された大学院独立専攻「イノベーション・マネジメント専攻」として設立した。経営大学院の人材養成は、単なるノウハウ教育ではなく、(論理的)思考力養成を第一にしているが、大学院では、経営者や技術者が多数を占める社会人大学院生とともに、アメリカ、中国、台湾、インド、韓国、欧州(イタリア、デンマーク)など内外の産業・企業調査も実施している。
授業料を支払う学生という「お客さん」の立場から、給料を貰うという「社会人」の立場に転換する際、そのギャップは最終出口である学校に集約されてしまう。職業人とも違う「社会人」という言葉は、筆者の同僚の英国人教授には、「社会人大学院とは何ですか?」と当初理解されなかった。社会人という言葉に顕著なように、わが国において大学と社会の関係は独特である。論を戻せば、大学進学率の向上によって、大学(大学院)が「社会に出る」最後の出口になってきた。そのため、企業の非難は最終出口である大学教育に集中することは当然であるが、それだけでなく、大学卒業者に期待される知識水準と現実のギャップが拡大していることも、大学教育に対する非難を拡大させた一因である。グローバル化の進展と同様、90年代以降ITの発展に見られるように、技術、市場は急速に変化し、「社会」が求める知力水準が急上昇した。一方、わが国の教育界は、初等中等教育におけるゆとり教育の導入、そして家庭教育(しつけなど)の崩壊などによって、大学入学時における学生の基礎学力及び市民としての常識などが、従来よりも低下している。大学の入口時の水準が低下する一方で、出口で要求される水準が上がっており、このギャップを学校教育の最終出口として、大学が担わなければならなくなったのである。
2回にわたって「1.経済のグローバル化と人材養成競争」および「2.人材養成で遅れをとる日本の大学教育」について論じてきたが、引き続き各界の論客と、国際的な視点での人材養成について、論じてゆきたいと思う。(おわり)
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