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2017-02-24 00:00
フィリピン沖海賊の政治学
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
2月に入っても、フィリピンのスールー諸島周辺海域での海上誘拐行為(マリタイム・キドナップ)に沈静化の兆しは見られない。2017年2月19日18時頃、インドネシアからフィリピンに向けセメントを満載して航行中のベトナム船籍の貨物船「GIANG HAI」(2,875総トン)が、フィリピン南部タウィタウィ島の北30マイルのスールー海で、高速艇に乗ったアブサヤフと思われる武装集団の襲撃を受け、乗組員1名が射殺、船長を含む6名が拉致された。そんな中、1月31日、フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国政府に対して、海上誘拐が頻発するミンダナオ沖公海上での海上警備行動を要請した旨を発表した。
そのわずか2週間前に日本の安倍首相はフィリピンを公式訪問し、経済のみならず海洋安全保障やテロ対策でも全面的協力を約束した直後であったので、ドゥテルテ大統領の中国に対する支援要請は日本政府関係者に少なからぬショックを与えた。しかし、最も当惑したのは当の中国政府だったかも知れない。2月3日付の人民日報英語版は、ドゥテルテ大統領からの海上警備要請について、事実関係のみを伝えた後、読者コメントの形で「これは『公海上での警備要請』という一見友好的な形をとっているが、その本質は『中国艦艇のフィリピン領海への侵入拒否宣言』であり、国連安保理決議も出されていない状況で、中国が安易にこの要請に応じる愚は避けるべきである」と述べ、慎重姿勢を促している。
その記事から5日後の2月8日、中国側の疑念を裏付けるかのように、フィリピンのロレンザナ国防長官は、「長年の盟友である米国」にフィリピン南部海域での共同海賊対処訓練を要請する計画がある旨を発表した。現在までのところ、米中いずれの政府もこの件について公式のコメントを出していない。2月14日、2016年11月にマレーシアのサバ州沖を航行中にアブサヤフに拉致された、ドイツ船籍のヨット「ロッコール」の船長ユーゲン・カントナー氏の動画映像がインターネットに掲載された。動画の中で、カントナー氏は「2月26日午後3時までに3千万ペソ(約60万米ドル)の身代金が払われなければ私は処刑される」と述べ、助命を嘆願している。これに対して、フィリピン国軍は「軍は人質の解放に向け全力を尽くしている。身代金は支払わないで欲しい」との非公式コメントを出している。
アブサヤフは、2016年、カナダ人の人質ジョン・リステルとロバート・ホールの両氏を、カナダ政府が身代金支払いを拒否した直後に予告通り殺害している。今回ももし身代金が期日までに支払われなかった場合、アブサヤフは同様な行動を取る可能性が高い。2005年頃から顕在化し始めたソマリア海賊問題では、関係国海軍による武力対処を認める国連安保理決議が出されるまでに3年、日本籍船の武装が認められるまでに8年、事態がほぼ沈静化するまでに9年を要している。海運各社には、関係国政府や国際機関の対応に過度の期待を抱かず、自助の精神で、独自のリスク対策向上に努めることを期待したい。
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