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2017-02-27 00:00
北朝鮮「テロ支援国家」に再指定を
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が2月13日、マレーシアで猛毒VXによって暗殺された事件は、北朝鮮の関与がマレーシア警察の捜査で濃厚になった。トランプ米政権は「テロリズム支援国家」に北朝鮮を再指定すべきである。北朝鮮が自ら実行を認めた日本人拉致事件もテロ行為である。再指定による制裁強化、国際的な圧力の高まりによって、北朝鮮の暴走を止めなければならない。2008年10月にテロ支援国家のリストから北朝鮮を外したのは当時のブッシュ政権である。拉致問題を抱える日本政府にとって「寝耳に水」だった。解除の理由は2007年の6カ国協議で北朝鮮が「すべての核計画の完全で正確な申告」をすることで合意したことである。
しかし、指定解除の2ヶ月後の6カ国協議は核の検証手続きで対立が解けず、成果なく終わった。当時、筆者は「百花斉放」欄で「手玉にとられた米の対北朝鮮外交」と題して「指定解除をまんまと手中にした北朝鮮の外交的勝利」と書いた。強調したのは当初、北朝鮮を「悪の枢軸」呼ばわりしていたブッシュ大統領が金正日総書記に親書を出すまでに豹変した一貫性のなさである。核武装は創建者の金日成主席時代から密かに追求してきた野望であり、「金体制」維持のため「決して核を手放さない」決意が背景にあることも指摘した。この事情は今でも変わらない。
米国のテロ支援国家の指定については、合衆国法典第50編App.第2405条項によって、国務長官が「国際テロ行為に対する支援を続ける」外国政府を指定する権限を有する(国立国会図書館調査資料)。刑事訴訟法上の定義として、国際テロリズムは「脅迫や強要、暗殺や誘拐により政府の政策や行為に影響を与える」ことを狙うものとされる。国務省テロ年次報告書の定義によれば、「政治的に動機付けられた計画的暴力で、非戦闘員に対してサブナショナルな団体又は、国家の情報機関員を含む秘密情報部員によって行われる」とされる。北朝鮮当局は事件への関与を真っ向から否定しているが、暗殺事件の展開を見る限りこれらの定義が当てはまりそうである。現在、テロ支援国家に指定されているのはシリア、イラン、スーダンの3カ国だ。
米議会調査局の報告書によると、北朝鮮が1988年に指定された理由は1987年11月の大韓航空機爆破事件(115人死亡)のためである。1970年の日本赤軍による日航機「よど号」ハイジャック事件の犯人たちを保護してきたことや、1970年代~80年代の日本人拉致事件も指定リストに載せられた理由であった。指定解除後も北朝鮮はシリア向け化学防護装置の捕獲、イランの支援を受けるレバノンの武装勢力ヒズボラや、イスラム原理主義組織ハマスに対する武器売却や兵員訓練、外国での拉致や暗殺など再指定の要件を十分満たす行為があったと指摘されている。
米国内では暗殺事件をきっかけに、再指定を求める議会やメディアの動きが活発化している。北朝鮮が日米首脳会談直後に弾道ミサイルを発射し、第6回核実験の兆候が伝えられる中で、国務省は再指定について北朝鮮を巡る国際関係にプラスかマイナスか検討していくだろう。冒険主義に走る北朝鮮に対してはテロ支援国家の再指定が強い圧力になり、後ろ盾の中国に対するけん制にもなる。しかし、再指定に対して北朝鮮は脅威感を強め、さらなる挑発行為に出ることが予想される。政権発足後1ヶ月経ってもホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)や国務省の上層部の体制が固まっていない異常な状態の中で、拙速な決定は禁物である。トランプ米政権が対中国を含めアジア全体の安全保障に影響を与える的確な戦略的決定をする上では慎重さも求められる。
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