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2017-03-09 00:00
(連載1)官邸は対露政策の不合理を自覚すべき時だ
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
日本に厳しい発言を続けてきたトランプ氏であるが、この2月に安倍首相を迎えてゴルフだけでなく幾度も食事を共にし、米大統領としては異例の厚遇をした。会談では心配された経済問題も封印して、ペンス副大統領と麻生副首相の経済対話にも同意した。やはり日本側に懸念を抱かせた安全保障問題では、とりあえず「100点満点」の対応を示した。安倍首相が国際レベルの政治家として大いに自信を強めたのも当然だろう。さらに安倍氏は、ロシアとの間には平和条約問題も存在しており、わが国の対露政策やロシアとの対話に対しても、トランプ氏の理解を得たと日本国民に伝えた。
トランプ米大統領は、イスラム7か国の入国制限などで国際的な非難を浴びている最中であった。また、トランプ氏自身や彼の側近たちのロシアとの関係に対しても、色々疑惑が生じている時でもあった。したがって彼には、G7の中では唯一、国外の人権問題にはほとんど関心を示さず、イスラム国からの入国制限問題にも介入しない同盟国日本との密接な関係を国際的にアピールして、各国からの懸念や批判をかわすきっかけにしたかったのだろう。また自らの対露政策の面でも、「プーチンとの関係構築に熱心な安倍には理解してもらえる」との思惑も見え隠れする。ただ、ここでは次の2点を指摘しておきたい。第1は、大統領に就任して早速、トランプ氏の対露政策に変化が生じていること。第2は、日露首脳会談の成果とされている北方4島の共同経済活動や日露平和条約問題に対するロシア側の理解が、日本側の理解とますます乖離してきていることだ。
第1だが、ロシアとの関係に関しては、トランプ氏は「クリミア併合」問題にはほとんど無関心と見られていた。また、ウクライナ問題絡みの対露制裁も支持せず、ロシアとの「取引き」次第でそれを解除することも示唆していた。しかし、彼は2月15日に初めて「クリミアはオバマが大統領の時に、ロシアによって奪われた。オバマはロシアに対してあまりにヤワだった」と対露強硬発言を述べた。その前日にはスパイサー報道官が、トランプ氏はウクライナでの事態の収拾とクリミアの返還を望んでいる、と声明した。対露制裁の解除に関してキスリャク駐米ロシア大使と電話会談をしたフリン大統領補佐官は辞職させられた。彼はロシア国営メディア「ロシア・トゥデイ」のテレビ番組にしばしば出演し、そのメディアの顧問として報酬も受け取っていた(『ガゼータ・RU』2017.2.14)。
エクソンモービルのCEOとしてロシアに深く関わってきたティラーソン国務長官は、プーチンと個人的関係も深くロシアから国家友好勲章を受けている。彼も2月1日の上院における宣誓では「ロシアは脅威」と述べた。2月16日にブリュッセルで終わったNATO国防省会議で、トランプ氏が厚い信頼と敬意を表して任命した米国のマチス国防長官は、NATOが直面している諸脅威の中で、過激派テロやサイバー・テロよりも、「ロシアの軍事的侵略」を第一の脅威に挙げた。ロシア紙(『コメルサント』2017.2.17)は「トランプ氏は実際にはこれまでの米指導部とは異なった見解を有しているのだが、しかし反露勢力の圧力を覆すことが出来ない」との見解を報じた。トランプ政権の対露政策はまだ流動的であり、安倍政権としては、安易にトランプ氏と共同でプーチン氏との連携政策を遂行できると考えるべきではない。(つづく)
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