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2017-03-10 00:00
(連載2)官邸は対露政策の不合理を自覚すべき時だ
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
第2の日露の首脳会談後の動きだが、筆者に理解できないことが幾つかある。そもそも安倍首相の「新アプローチ」の論理が理解できない。また、首脳会談の「成果」としての北方4島の共同経済開発の合意も、首脳会談後のロシア側の態度を見ていると、ますます不可解の感を深くする。まず平和条約問題に対する「新アプローチ」推進の理由として首相官邸は、「従来の発想・アプローチでは領土交渉が全く前進しなかった」ということをその理由に挙げている。一方ロシア側は新アプローチを、「領土問題を棚上げして経済その他の協力をまず積極的に進める」ことと理解している。つまり、日本側は領土交渉を前進させるために譲歩し、それをロシア側はこれまで強く求めていた要求が受け入れられたため、と見ているのだ。
ロシア側の観点から論理的に考えると、領土交渉を全く前進させなかった(むしろ強硬姿勢に転じた)これまでの対日政策はまさに正解だった、との結論になる。となると、論理的には、さらに今後も対露協力を一層引き出すためには、ロシアは領土問題で強硬姿勢を貫くか、一層の強硬策を推進すべきだ、ということになる。事実、昨年5月に安倍首相がソチで「新アプローチ」と7項目の経済協力を提案し、9月にウラジオストクでその提案をさらに具体化し、首相が「毎年ウラジオストクを訪問する」とまで「前のめり」の姿勢を示したのに、12月の日本での首脳会談では、領土問題でプーチンは強硬姿勢を貫いた。いや、日米安保条約を持ち出すなど、むしろ一層強硬になった。日本での首脳会談について最近のロシア紙(『ヴェドモスチ』2017.2.13)は、「プーチン氏と安倍氏の間では、島の帰属問題は話題にならなかった」とさえ報じている。これが事実か否か別にして、ロシア側が、安倍氏は大幅に譲歩してロシア側の要求に屈したと理解しており、そのことを筆者は深刻な問題だと受け止めているのである。
また北方4島における共同経済活動であるが、これは元々1990年代にロシア側が求めてきたもので、1998年のモスクワ宣言ではそれを日本側が譲歩し、認めて、共同経済活動委員会を創る代わりに、日本側の要求で「国境画定委員会」、つまり領土問題解決のための委員会をロシア側に認めさせたのだ。ただ「お互いの立場を損ねない」との条件を付したので、ロシア法の下での共同経済活動は進まなかった。
今は、ロシア側が求めた「共同経済活動」が独り歩きし、しかもそれが平和条約締結のための新たな条件の如く位置づけられている。ロシア側は12月の首脳会談の時も今も、共同経済活動を「ロシア法の下で行う」という立場を一切崩していない(『ヴェドモスチ』2017.2.13)。そのための「特別な制度に合意した」との首相の発言をロシア側は認めていない。3月18日に、秋葉外務審議官とモルグロフ外務次官の次官級会議が行われ、漁業、海面養殖、観光、医療、環境その他の分野での共同経済活動について話合われる。ロシアの専門家も、日本側は「両国の法的立場を侵さない何らかの狡猾な制度を考えようとしているが、果たしてそれは可能なのか」と、実際の成果を大いに疑問視している(『独立新聞』2017.2.15)。筆者は、安倍首相の領土問題解決に対する並々ならぬ熱意は高く評価するものである。しかし首相官邸は、そろそろ自らの対露政策の非論理性と不合理性をはっきり自覚すべき時ではないか。(おわり)
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