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2017-03-13 00:00
半島危機、勢力均衡崩す要因に
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮の最高指導者の異母兄暗殺事件(2月13日)、急ピッチの核開発や日本に向けた弾道ミサイル連続発射(3月6日)、さらに韓国大統領初の弾劾・罷免(3月10日)という歴史的事件は朝鮮半島情勢の極度の不安定化をまざまざと示した。罷免後60日以内に行われる大統領選挙では親北朝鮮・左派陣営が有力とされ、選挙結果によっては韓国の対日本、米国、中国、北朝鮮関係に大きな影響が出る。朝鮮戦争以来、60年余続いた北東アジアのバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の変動要因になる可能性が高まる。
勢力バランスが崩れる場合に大戦争が勃発することは歴史が証明している。日本が近代国家として登場した19世紀後半、朝鮮半島(当時の李氏朝鮮は清朝の冊封体制下にあった)を囲む国際情勢は複雑かつ目まぐるしく動いた。半島の支配権を巡る清朝、ロシア帝国、日本の三つどもえの争いに加え、英、仏、独、米国などが軍事行動を含む介入をしばしば行った。日清戦争(1894ー95年)、日露戦争(1904ー05年)はその帰結であり、日本の勝利は20世紀アジアにおける国際秩序に地殻変動をもたらした。
北朝鮮の弾道ミサイル4発は1000キロ離れた能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に正確に打ち込まれた。既に日本を射程距離に収めるノドン・ミサイルを実戦配備している「北」はミサイル発射を「在日米軍基地攻撃部隊」の訓練と発表した。第7艦隊を含む米軍とともに日本本土を標的にすると宣言したに等しい。実際に攻撃が行われれば「日本有事」である。韓国は政治空白の中、米軍の高高度地域防衛(THAAD)ミサイル・システム配備の作業を開始した。配備に強く反対する中国は対韓圧力を強め、経済的な締め付けも実行している。左派勢力が次期大統領になれば、中国に迎合して配備中止に走る可能性もある。
韓国民の認識が薄いか、あるいは知らないふりをしているのが、韓国防衛に対する在日米軍の決定的重要性である。朝鮮戦争で韓国軍は半島最南端の釜山まで追い詰められたが、休戦ラインになる38度線まで盛り返すことができたのは、在日基地からの激しい米軍の反攻によるものだ。在日米軍基地がなければ半島はあの時、共産化していただろう。北朝鮮がそれを攻撃目標にしていると公言するのは米軍の怖さを知っているからである。北朝鮮の後ろ盾になっている中国は2017年度予算で、経済成長率(6.5%前後)を上回る7%増の国防費を計上、初めて1兆元(約17兆円)を超える軍拡路線を推進している。公表された分だけでも日本の防衛費の3.3倍に当たる。東シナ海、南シナ海の緊張はますます高まるだろう。
米国にとって朝鮮半島と台湾海峡がアジアの発火点であることは第二次大戦後70年経っても変わらない。しかし、アジアの戦略バランスは中国の急速な台頭で激変した。海洋や宇宙を含め軍事的な脅威が強まり、情勢の不確実さが増している。米カーネギー平和財団のJ・ショフ上級フェロー(アジア担当)は「北朝鮮と東シナ海の不測の事態が直近の最大の焦点になる」と警告した。安倍晋三首相はトランプ米大統領との電話会談(3月7日)で「日米同盟の抑止力を高めるため、日本はより多くの役割と責任を果たす」と述べ、大統領も「米国は100%日本とともにある」と応えた。トランプ政権は2018会計年度(2017年10月ー2018年9月)予算案で国防費を10%(540億ドル)増額の軍拡方針を示した。2月のマティス国防長官に続き、ティラーソン国務長官が3月15日から日本、韓国、中国を歴訪する。民主化以来、最大の政治危機のさなかにある韓国をどのように支えていくかが、日米が直面する課題である。
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