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2017-03-26 00:00
(連載1)ドイツは西側民主主義諸国のリーダーになれるか?
河村 洋
外交評論家
ドイツを人権や自由貿易といった国際的な道義や規範の擁護者として期待できるだろうか?通常ならこのような問いかけをする者はまずいないが、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権の登場が全世界の外交政策有識者を震え上がらせている時だけに、この問いかけは今特別の意味をもつ。アメリカが自らの作り上げた世界秩序から手を引くなら、他の国が取って代わる必要があるからだ。先の米独首脳会談で、メルケル氏は「ドイツがNATOにただ乗りをしている」というトランプ氏の主張を敢然と退ける一方で、寛容な入国政策と自由貿易を訴えた。その後メルケル氏は日本の安倍晋三首相とも会談して、保護主義に反対する共同メッセージを打ち出したばかりか、日・EU自由貿易協定の構想まで公表した。これら外交成果を見る以前に、クリントン政権期のジェームズ・ルービン元国務次官補は「トランプ氏の自国中心のナショナリズムと無知丸出しの親露的な世界観がアメリカの指導力を低下させる一方で、メルケル氏の経験と知識に対する評価が西側同盟の中で高まっている」と論評していた。
しかし、ドイツはどう見ても超大国の候補ではない。ハードパワーだけを見れば、ドイツはアメリカよりもはるかに弱小だからである。2016年におけるアメリカのGDPはドイツの6倍である。軍事力ともなると比較にならない。よって、パックス・ゲルマニアがパックス・アメリカーナに取って代わることは、たとえトランプ政権が全ての国際関与から手を引いて、大統領自身が認識できる範囲内での国益追求に走ったとしても、有り得ない。よって、世界でより積極的な役割を担ううえで、現在のドイツの弱点を査定することが必要である。
ドイツの最も明らかな弱点は、大西洋同盟の防衛への貢献である。ドイツの国防費はNATOが目標とするGDPの2%にははるかに及ばず、それがトランプ氏の根拠薄弱なNATO懐疑論に対抗してヨーロッパを結集してゆくだけの指導力の発揮を妨げている。さらに冷戦終結以来、安全保障の課題は中東アフリカ地域のイスラム過激派、サイバー戦争、ロシアの再台頭など多様化している。しかし、ウクライナ危機以降はドイツでも地域安全保障への意識が高まり、冷戦最盛期から再び国防費の増額に向かっている。これはトランプ政権の圧力とは関係ない。EU最大の経済大国であるドイツが軍事力の強化に本気で乗り出せば、ヨーロッパの防衛力は大幅に向上するであろう。しかし、ドイツの国防力強化はとてもNATOの要求水準を満たすには至らず、依然としてこの国は日本のような平和主義の思考にとどまっている。
メルケル政権のドイツが無知で無責任で予測不能なトランプ大統領に対して立ち上がるように期待する声もあるが、国際政治情勢は必ずしもこの国にとって好ましいとは言えない。メルケル首相自身がそうした考えを「グロテスク」かつ「馬鹿げている」と言うほどである。第二次世界大戦後のドイツは長年にわたってリベラルな外交政策を採ってきたが、対独恐怖症は依然としてヨーロッパ全土に広がっている。西ヨーロッパでの右翼ポピュリズムの台頭に加えて、ポーランドとハンガリーの専制政治に囲まれたドイツは、一般に思われているよりはヨーロッパで孤立している。さらにドイツが経済でのリーダーシップに必ずしも長けていないことは、ユーロ危機で典型的に表れている。特にメルケル氏が行なったギリシアとキプロスの債務危機に対する救済策については、国際世論はそれを何か高圧的で、消極的なものとして、受け止めていた。(つづく)
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