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2017-04-01 00:00
(連載1)主権意識の欠如が対北危機を招いた
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
最近の日本の政界やメディアを見ていて、異様に感じることがある。それは、国会でもメディアでも、専ら国政の本質ではない目先の政争問題が大々的に扱われ、例えば北朝鮮の核・ミサイル問題などわが国の安全や主権の重大な危機が、一過性の出来事のように軽く扱われていることだ。そのような対応の結果が、今の北朝鮮絡みの深刻な状況を生んだのではないか。これは日本だけでなく国際社会の対北朝鮮政策の誤りの結果でもあるので、やや広い観点から考えたい。
すでに1990年代に北朝鮮の核問題は深刻化し、95年には朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が設立された。2001年の米同時多発テロ事件の後、2002年1月にはブッシュ大統領は北朝鮮など三国を「悪の枢軸」国家とし、「机上には全選択肢がある」と武力介入も辞さずの態度を示した。米国が中心となって、その前年12月にはアフガニスタンのタリバン政権を崩壊させ、03年の3月には、イラクのフセイン独裁政権を軍事攻撃して、約一か月で崩壊させた(その是非は論じない)。これに心底震え上がったのが金正日やリビアのカダフィなどの独裁者で、前者はピンポイント攻撃などでの暗殺を恐れて長期間姿を隠し、後者は03年12月に核計画を廃棄した。
筆者は米国が断固とした姿勢を示したこの時期が、北朝鮮の核放棄が現実性を有した唯一の時期だったと見ている。と言っても、北朝鮮に武力行使をすべきだとか、それが核・ミサイル問題の唯一の解決法だと言うのではない。武力行使の現実の可能性を背景にして初めて、交渉や対話によって核を放棄させられる、という意味である。ただ、この時期に小泉純一郎首相が訪朝し(02年9月)、また北朝鮮の核・ミサイル計画阻止のための六者協議が始まった(03年8月)。筆者は、日本および国際社会のこの2つの行動は、北朝鮮指導部の心理も現実も理解していない過ちの典型だと見ている。
小泉訪朝は、02年8月30日に電撃発表された。この日、筆者は露外務省局長室で、長年露と専門家会議をした安全保障問題研究会の一員として、露の対日政策責任者と二人で懇談していた。その時部下が入室して文書を局長に渡し、彼がそれに署名して私に次のように述べた。「袴田さん、小泉訪朝の重大ニュースです。<北東アジアの安定のために歓迎する>との露外務省声明に今署名しました」。このすぐ後、元露外務次官で駐韓大使も務めたクナーゼ氏と個人的に話した。氏は、外交専門家として公式声明とは逆の厳しい小泉評を次のように率直に述べた。「小泉氏は北朝鮮問題を国内政治の観点からしか見ておらず、国際戦略や外交問題が全く理解できていない」。日本にとり最重要のはずの米戦略をぶち壊しにした、との意である。(つづく)
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