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2017-04-02 00:00
(連載2)主権意識の欠如が対北危機を招いた
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
02年9月17日の小泉訪朝時の平壌宣言では、「双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した。また双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した」と、今から見ると失笑するような合意がなされている。拉致問題についても、後述のようなナンセンスな合意がなされた。このような楽天主義、宥和主義の雰囲気を基礎に六者協議が始まった。08年12月に中止されるまでこの協議では、中露だけでなく日韓の圧力で、また米国国内事情も絡み、米国の北朝鮮への武力行使は否定された。それが明らかになるやすぐに、北朝鮮は公然と「核保有」を宣言し、その後核・ミサイル実験を繰り返して、誇示している。
筆者は以前からこの六者協議を、経済最貧国の北朝鮮を国際政治の主役に祭り上げ、同国に核開発の猶予を与えただけだと、厳しく見てきた。わが国は「対話と圧力」政策を掲げるが、経済制裁の圧力が中国によって骨抜きにされることは、以前から分かっていたはずだ。トランプ政権は、過去20年の対北朝鮮政策は誤りだったとし、再び「机上には全選択肢がある」としてオバマ政権の「戦略的忍耐」を否定した。ただ今は北専に核放棄をさせることは比較にならないほど困難となっている。カダフィ殺害や「クリミア併合」が、金正恩に核保有の絶対的な必要性を確信させたからだ。(ウクライナは1994年のブダペスト覚書で、米、英、露などによる領土保全などの主権保証と引き換えに核を放棄した)。
拉致問題だが、平壌宣言でもその時の小泉首相の記者会見でもこれを「日本国民の生命と安全に関わる重大な問題」とした。一方、1967年には韓国中央情報部が韓国人留学生を西独から不法連行し、彼らは韓国で北朝鮮絡みのスパイ罪等で死刑、無期懲役の判決を受けた。西独はこれを自国民の人道問題ではなく「主権侵害」の問題として国交断絶を突き付けて17名の韓国人全員をその年のうちに取り戻した(東ベルリン事件)。日本には、このような国家としての主権意識や毅然とした態度が大きく欠けている。
最後になるが、今年2月にマレーシアで金正男が北朝鮮関係者によって猛毒で殺害された。北朝鮮は現在公然と、米国と軍事同盟を結ぶ日本を核攻撃のターゲットと述べているが、化学兵器の使用もあり得るということだ。この問題に対しても、わが国の国会やメディアは真剣に対応を検討・議論していない。さらに金正男に関して想起することがある。2001年5月に彼は偽造旅券で不正入国しようとして成田空港で一旦拘束されたが、結果的には日本政府は、腫れ物に触るような扱いで「お帰り頂いた」。一国の主脳の子が日本の主権を侵しているのに、この日本政府の扱いは解せないと筆者はある場所で述べた。国によっては、国境地帯は特別管理され、不法に越境する者は銃殺され得るという状況を知っていたからだ。その時、わが国のある北朝鮮問題の専門家が、「たかが出入国管理令違反の微罪ではないか」と反論した。ちなみに小泉首相の初訪朝は、この翌年である。この事件も、日本の政府や専門家でさえも、国家主権というものの重さを理解していないことを示している。(おわり)
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