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2017-04-03 00:00
辺野古埋立「承認撤回」と翁長知事の損害賠償責任
加藤 成一
元弁護士
沖縄県の翁長知事は、3月25日米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する集会で、「撤回を必ずやる」と述べ、辺野古の埋め立て承認撤回の方針を初めて表明した。これに対し3月27日菅官房長官は、対抗措置として、実際に承認撤回がされた場合には、知事権限乱用で翁長知事に損害賠償を請求する可能性を示した。「公有水面埋立法」に基づき、知事には埋め立て承認の権限が与えられている。行政法の一般理論によれば、翁長知事において仲井真前知事の埋め立て承認の手続きや内容に瑕疵があると判断すれば「承認取消」ができ、適法な承認後に公益を害する事由が生じたと判断すれば、「承認撤回」ができる。そして、「承認撤回」は、撤回で生じる国の不利益よりも県の公益が大きい場合に認められる(参考判例・菊田医師指定医撤回事件昭和63年6月17日最高裁第二小法廷判決民集154号201頁)。しかし、翁長知事による「承認取消」は、すでに昨年12月20日付け最高裁第二小法廷判決で違法とされ確定している。したがって、辺野古移設を阻止する有力な手段としては「承認撤回」しかない、と知事が判断したのであろう。
行政法の一般理論として、「承認撤回」が認められている以上は、翁長知事による「承認撤回」が直ちに知事個人に対する損害賠償責任を発生させるものではない。しかし、(1)「承認撤回」について、国以上の公益性や合理性、必要性がなく、知事の行政裁量権の逸脱又は知事権限の乱用がある旨、国による知事に対する取消訴訟で認定された場合は、「承認撤回」の行政処分は取り消される(行政事件訴訟法30条)。のみならず、(2)「承認撤回」に関する翁長知事の職務執行に故意又は重大な過失があり、国に損害を加えた場合は、知事個人にも損害賠償責任が発生する(国家賠償法1条2項)。
先ず、(1)の翁長知事による「承認撤回」が、行政裁量権の逸脱又は知事権限の乱用に該当するかについて検討する。思うに、翁長知事において、辺野古移設を阻止する目的で「承認取消」を行なったが、これが最高裁で違法とされたため、同じ目的でさらに「承認撤回」を行なうことは、まさに、同一の当事者が、同一の目的のために、概ね同一の事実関係について、重複して類似の行政処分を行なうことになり、実質的には「一事不再理の原則」に抵触する可能性がある。そのうえ、翁長知事の主張する「公益」は沖縄の基地負担の軽減であるが、前記昨年12月20日付け最高裁判決は、「普天間に比べて辺野古は施設規模が縮小され、移設すれば、航空機が住宅地の上空を飛行するのを回避できる」と認定しているから、辺野古移設は、翁長知事の主張する「公益」である沖縄の基地負担の軽減にも叶うのである。したがって「承認撤回」はむしろ「公益」に反することになると言えよう。以上の諸点を考えると、「承認撤回」は、行政裁量権の逸脱又は知事権限の乱用として、取消訴訟では短期間で取り消される確率が高いであろう。
次に(2)の翁長知事個人の損害賠償責任については、翁長知事が上記(1)の諸事情を熟知しながら、専ら辺野古移設を阻止妨害するために、敢えて「承認撤回」の行政処分をすれば、職務執行における故意又は重大な過失による知事権限の乱用として、知事個人についても損害賠償責任が発生する可能性は否定できないであろう。損害としては、「承認撤回」で移設工事が中断すれば、機材調達費や人件費など莫大であろう。参考になるのは、最高裁第三小法廷平成28年12月13日付け決定によれば、東京都国立市の元市長が、高層マンションの建設阻止のために、市の内部情報を提供して住民運動を起こさせたり、マンションが建築基準法に違反するかのような議会答弁をするなど、職務の執行につき故意又は重大な過失があったとして、国立市が業者に支払った損害賠償金3100万円を市に支払うよう、元市長に命じている。これは、最高裁が地方自治体首長個人の損害賠償責任を認めた重要な裁判例である。
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