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2017-04-10 00:00
米中関係は、新秩序への試金石
鍋嶋 敬三
評論家
政権交代後の外国指導者の首脳会談はその後の二国間、多国間関係を決定づける重要な出会いである。ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談(4月6、7日)は今後の米中関係の基調を占い、新たな国際関係の形成に大きな影響を与えるものとして世界が注目した。結果を見れば期待先行で、首脳間の理解は進んだものの、差し迫った北朝鮮の核・ミサイル危機、東シナ海、南シナ海問題、貿易不均衡是正などの解決の具体策には及ばずに終わった。共同声明も共同記者会見もなかったのは、米中間の溝がいかに大きく、深かったかを示すものだ。初顔合わせの指導者のイメージはその後の国同士の関係をも左右する。米国のケネディ大統領がソ連のフルシチョフ書記長に見せた弱さが、キューバへの核ミサイル持ち込みを許したとされるほどだ。
トランプ大統領は習主席を招いた夕食会の時にシリア空爆を敢行、世界を驚かせた。力の信奉者に対しては力を見せつけることが最も効果的であることをトランプ氏は知っているのだ。それはシリアのアサド大統領、彼を支えるロシアのプーチン大統領だけでなく、習主席や北朝鮮の金正恩委員長に対しても適用できる。習氏がオバマ前政権に働き掛けてきた「新型の大国関係」は、トランプ大統領に「無視」された。中国がよく口にする「相互尊重」は会談後のホワイトハウス報道官の発表にもあるが、米国は「対等な市場アクセス」を強く主張、「中国政府の経済への介入」に「深い懸念」が表明されている。一方、中国側も「一つの中国」政策の堅持を求め、南シナ海の主権主張を止めず、強硬な外交方針を譲らなかったことは明白である。
米大統領と対等に渡り合ったというイメージが作り出されなければ、「核心」的な指導者としての習主席の地位が損なわれる。国内政局の安定こそ習氏の外交戦略の基盤である以上、既定の路線を踏み越えることはできないのだ。米国の対中貿易赤字削減に向け「100日計画」の策定で合意したものの、中国側の発表にはない。100日以降の今秋に中国共産党大会が控えているため、米中双方が満足する成果は困難だろう。
最大の焦点は北朝鮮問題であった。シリアと違い、核兵器とミサイルを武器に脅しをかける北朝鮮の軍事力は無視できない。アメリカン・エンタプライズ研究所(AEI)のM.オースリン日本研究部長は、北朝鮮はトランプ政権にとって「最初の国際危機になった」と言う。米メディアは「ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)が在韓米軍への戦術核兵器の再配備を大統領に提案した」と伝えた。大統領は「あらゆる選択肢がテーブルにある」として、中国が北朝鮮に対する制裁圧力を強化しないなら「米国は単独でも対応する」と、習主席に警告した。しかし、中国政府の発表では、中国は国連安全保障理事会の制裁決議を「引き続き全面的に履行」、北朝鮮の核・ミサイル活動と米韓合同軍事演習の「同時停止」、「高高度地域防衛(THAAD)ミサイルの配備反対」など従来の路線から一歩も出ない。これでは朝鮮半島危機は深まる一方である。
米中関係の進み方は日本にとっても重大な関心事である。安倍晋三首相は4月9日、トランプ大統領と電話会談した。2月の首脳会談、北朝鮮のミサイル発射直後の4月6日の電話会談に続く頻繁なやりとりは、二人の信頼関係を反映している。首相は「北朝鮮について中国の対応に大変注目している」「日米の緊密な連携、日米韓の結束が重要なことで完全に一致した」と語った。次の核実験や弾道ミサイル発射など北朝鮮の新たな挑発に対して、米中会談を経た習指導部がどのような有効な措置を打ち出せるか、けん制したものである。東シナ海、南シナ海を含めアジアに軍事危機を作り出してきた中国の姿勢に変化は起きるのか。中国が目指す「一帯一路」などの新たな国際秩序作りの行方を左右する試金石になるだろう。
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