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2017-05-09 00:00
度しがたい反日大統領誕生をどうする
杉浦 正章
政治評論家
韓国大統領選挙の投票が5月9日開始されたが、今日明日の二回にわたって韓国の大統領選を取り上げる。今日は日韓関係、明日は結果が極東情勢に及ぼす影響がテーマとなる。まず選挙公約から見る限り、日韓関係は「共に民主党」の文在寅、国民の党の安哲秀、自由韓国党(旧与党セヌリ党)の洪準杓のいずれが選出されても、朴槿恵より悪化する。とりわけ革新系の文が大統領になった場合は、2015年の日韓慰安婦合意の継続は極めて困難となりそうだ。しかし日本政府は慰安婦支援の10億円をとっくに支払い済みであり、韓国側は大半を元慰安婦に配布済みだ。政府は国家間の合意、しかも「最終的かつ不可逆的解決を確認した」合意の破棄を簡単に認める必要は更々ない。未来永劫突っぱね続ければよい。韓国側が一方的に破棄するなら、強い外交・経済的制裁措置も視野に入れるべきであろう。
3候補の主張は、多かれ少なかれ「反日」である。それでなければ選挙にならない国民性がある。事前の世論調査の支持率では、1日のリアルメータ調査が、文42.2%、安18.6%、洪18.6%,4日のギャラップ調査が文30%,安20%,洪16%となっており、文が圧倒的に有利だ。しかし、首長選挙の調査に関しては、日本のマスコミはまず間違えないが、韓国は87年から6回の選挙のうち4回を読み違えている。調査の精度が極めて悪いから要注意だが、流れを大局的に見れば、文は反朴槿恵闘争の象徴的存在であり、その勢いを背景にしているからリードはうなずける。期日前投票を見ても、文支持の多い若者の投票が目立っている。各候補の対日関係に対する公約は8日の段階でも文の強硬姿勢に変化はない。慰安婦合意について「合意は間違っている」と明言、再交渉を主張した。その理由は「朴槿恵前大統領の国政壟断(ろうだん)によて行われた」からだという。
ただ対米、対北関係について文は「北朝鮮に米国より先に行く。米日に十分説明する」と述べているが、これがどうも疑わしい。なぜなら日本のメディアはどこも報じていないが、米紙ワシントンポストが2日に掲載したインタビューで文は「ワシントンより平壌(ピョンヤン)に先に行くという考えには変わりはないのか」という質問に、「私が大統領になれば、トランプ大統領に先に会って北朝鮮核問題について深く話し合って合意する。金正恩労働党委員長とは、核問題を解決するという前提があってこそ会える」との考えを示した。いくら選挙公約であるにせよまさに二枚舌を国内と米国に対して使っているのだ。また韓米同盟を再調整すべきと考えるかと問われ、文は「私の返事は『ノー』だ。韓米同盟は韓国の外交と国家安全保障の最も重要な土台だ。結果的に韓米同盟をさらに強化するだろう」と強調した。米韓関係に関しては極めて常識的な発言をしている。この“使い分け戦術”が対日関係についても同様かどうかは、正直言って未知数だろう。対日批判は一般民衆に一番訴えやすいテーマであり、波に乗ったポピュリズム政治家なら、この“何物にも代えがたい至宝”を簡単に手放すことはあるまい。陰に陽に使い続けるに違いない。
一方中道左派の安哲秀も、日韓合意は破棄だ。慰安婦像撤去に関する部分はもともと韓国側の努力目標であった性格があるが、これを巧みに突いて「少女像の撤去に関する合意があったかどうかは真相究明が必要」と述べている。保守の洪準杓も破棄。「慰安婦問題はナチスのユダヤ人虐殺に並ぶ、反倫理的な犯罪であり、そのような犯罪は合意の対象にならない」と言いきっている。こうして、どの候補も反日と反慰安婦合意を競っているが、今更ながらに朝日の慰安婦大誤報が残した傷跡は取り返しの付かないものとなっていることが分かる。しかし国家間の合意が黙ってほごにされるのを見過ごすわけにはいくまい。新大統領の対日政策を見極めた上で、米国をはじめ国際社会へのPR戦に打って出る必要がある。政府間合意を日本だけが忠実に履行したにもかかわらず、韓国が反故にすればこれは、国際社会から当然批判の対象になり得る。国連など国際機関でも堂々と主張できるテーマである。加えて経済的に効き目があるのが各国の中央銀行が互いに協定を結び、自国の通貨危機の際、自国通貨の預入れや債券の担保等と引き換えに一定のレートで協定相手国の通貨を融通しあう通貨スワップ協定の無期限中断の続行だ。
既に韓国との間でスワップ協定をした国が次々に延長拒否をしている。THAAD配備で怒り心頭に発している中国も今年10月で期限が切れる協定の延長を拒否する公算が大きい。残るのは東アジア地域における、通貨スワップ取り決めであるチェンマイ・イニシアティブ (CMI)の384億ドルのみとなり得る。これでは通貨危機にとてもではないが対応しきれない。韓国は既に2008年から2009年にかけて通貨危機に遭遇しており、日本は米国、中国に次いで3番目に救いの手を差し伸べたが、韓国は「日本は出し惜しみをした」と感謝するどころか恨んでいる。度しがたい国だが、毎度のことで怒っても仕方がない。反日の新大統領が出るなら今度は地獄の底を見てもらうことになるかもしれないということだ。しかし韓国のネット掲示板で「韓国民は周辺国でどこが好きか」のアンケート調査が実施されていたので紹介すると、ロシアの36%についで、日本が29%となっており、中国は最近の事情を反映してかたったの2%にとどまっている。日韓関係は政治となるといがみ合うが、民衆レベルでは銀座でも韓国語がよく聞かれるように、交流が先行している。基本はこの草の根の交流を推進して、長い目で韓国側の改善を待つしかない。
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