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2017-05-11 00:00
安倍、改憲で民進分断も狙う
杉浦 正章
政治評論家
一見荒っぽいように見えるが、政界勢力地図をにらんだ緻密な仕掛けと言うしかない。首相・安倍晋三が大胆にも提唱した9条に切り込んだ「加憲」による憲法改正案である。マスコミは自民公明両党と日本維新の会との連携で改正に必要な3分の2を確保することを目指したものとしているが、加えて民進党分断も狙っていることが鮮明になった。筆者は、首相の主張する9条1項、2項は維持して新たに3項に自衛隊を加える案は確か民進党にも誰かが主張していたはずと調べてみたらいたいた。元外相前原誠司だ。2016年の民進党代表選で9条に関して前原は「1、2項は変えず、3項に自衛隊の位置付けを加えることを提案したい」と発言していた。条文の維持を求めた蓮舫ら他の候補とは真っ向から対立していたのだ。公明、維新に民進の右派が加われば、早くも勝負はついた感じが出ている。政局的には、3分の2が必要である以上簡単にはそれを失う可能生のある早期解散は出来にくくなったことになる。
党内が割れていては5月9日の国会質疑で蓮舫の舌鋒が全く冴えなかったわけである。2日間の集中審議は民放が大袈裟に「内閣の命運を左右する重大な質疑となる」とはやし立てていたが、その実態は、改憲をかざして奇襲攻撃に出た安倍の横綱相撲が、民共のふんどし担ぎを余裕を持ってなぎ倒した観が濃厚であった。とりわけ蓮舫は、女だからふんどしは担がないが、一見舌鋒が鋭いように見えても、針で足をチクリとさす程度ではとても致命傷にはならない。つくづく大なたを振るえない女だと思った。蓮舫は安倍が改憲提示を自民党総裁として行ったことに関して、「総理と総裁を使い分けている。二股だ」と外形批判に終始したが、肝心の安倍提案の中身には深く言及しなかった。しなかったというより、出来なかった。蓮舫が追及すべきは9条の戦力不保持と自衛隊の文言挿入は両立するのかどうかや、自衛隊の名称は残すのかなどであったが、その核心には踏み込めなかった。改憲問題自体をよく知らないことが露呈した。第一「二股だ」と言っても、元祖二股は蓮舫その人ではないか。台湾との二重国籍隠しはその最たる例だが、民主党政権で閣僚の地位にありながら国会事務当局をだまして、300万円の衣装を着てファッション雑誌のモデルになって、国会内で写真撮影を行ったことも記憶に新しい。閣僚とファッションモデルの二股は見苦しい。
それにつけても、民進党は憲法論議になぜこう弱いのか、と言うことだ。その理由は、党内の論議をまとめられず、独自の改憲案を自民党のように提示できないところにある。社会党の左右両派の対立をいまだに引きずっているからだ。改憲反対論の左派と推進論の右派には天と地の開きがある。前原に加えて元環境相細野豪志は「憲法に自衛隊の存在を挿入することには賛成だ」と発言している。民進党右派は、今後安倍が改憲を推進すればするほど、窮地に陥る公算が高い。憲法改正という大義に殉じて党を割るか、これまで通り左派の後ろをついて行くか、の選択をしなければならなくなるからだ。
一方、自民党内は反安倍色を強めつつある石破茂が「今まで積み重ねた党内議論の中にはなかった考え方だ。自民党の議論って何だったの、というところがある」と述べ、首相“独走”を批判した。明らかに来年9月の総裁選に向けてシンパを改憲問題で増やそうという考えだ。さらに問題なのは、衆院憲法審査会の幹事で党憲法改正推進本部長代行を務める船田元だ。8日付のメールマガジンで、「もう少し慎重であっていただきたかった、というのが本音」などと批判している。「第一義的には憲法制定権力を有する国民を代表する国会が発議すべきものというのが常識だ」と強調している。しかし、これは官僚的な筋論であり、安倍は自民党総裁としての立場から改憲を主張しているのだから問題はない。そもそも憲法審査会のていたらくを考えてみるがよい。改憲勢力が衆参で3分の2を維持している現在が絶好のチャンスであるにもかかわらず、自民党は民共に引っ張られて、2007年に設置されて以来神学論争を繰り返すばかりではないか。安倍は改憲の核になる同審査会のメンバーを、もう少し政治的かつダイナミックに動ける人物に差し替えるのが先決ではないか。戦う審査会にしなければ物事は動かない。それにしても船田は祖父船田中に比べると小粒だ。慎重な党内論議が必要だが、総じて大勢は「安倍改憲」でまとまるだろう。
安倍が唐突に見える決断を下した背景をみれば、読売が絡んでいるという見方が濃厚だ。読売のOB筋によると、「どうもナベさんの進言が利いたらしい」とのことだ。読売新聞グループ本社主筆渡辺恒雄が首相に最近進言したというのだ。確かに3日には口裏を合わせるかのように安倍が憲法改正集会で総裁として改憲発言をすれば、読売は朝の紙面で安倍とのインタビューを掲載。以後怒濤の勢いで「社始まって以来の大キャンペーン」(OB)を展開している。新聞の傾向を社説から見れば、読売と産経が「改憲賛成」、日経も賛成に近い「真剣に議論」、朝日、毎日は「反対」と割れている。発行部数から言えば賛成派が圧倒的に多い。例によって、TBSとテレビ朝日のコメンテーターらが出番とばかりに反対論。自民党は放送法で公平中立が義務づけられている民放の報道をウオッチする必要がある。それでは安倍の言う「2020年の施行」を目指すにはどのような日程が考えられるかだが、まず憲法改正手続きは、(1)衆参憲法審査会で改正原案可決、(2)衆参本会議で3分の2以上で可決し発議、(3)60日から180日間の国民投票運動期間を設置、(4)国民投票の過半数で決定、(5)直ちに天皇が公布、と言う段取りを経る。このためには相当きついスケジュールが必要となる。まず1年くらいの国会論議が必要だろうから、来年の通常国会末か、秋の臨時国会での発議となろう。その後最短60日で国民投票となる。国民投票は衆院議員の任期切れが2018年末だから、総選挙とのダブル選挙になる公算がある。参院選挙は2019年夏だから、この場合は計算に入れる必要はない。このスケジュールで行くとすれば、解散は不可能であり、事実上の任期満了選挙となる公算が高い。
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