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2017-05-29 00:00
パラダイム・シフトに揺れる世界
鍋嶋 敬三
評論家
イタリアでの主要国(G7)首脳会議(5月26、27日)が示したものは自由貿易、地球温暖化など世界的な課題に責任を負うG7の手詰まり感である。首脳宣言では「保護主義と闘う」ことがかろうじて明記されたが、気候変動問題では米欧の溝がはっきりした。第二次大戦後のリベラルな国際秩序のパラダイム・シフト(枠組みの転換)が起きていることを反映したのである。北朝鮮の核・ミサイル技術の急速な進展、中国による東シナ海、南シナ海での主権の一方的な主張と実力行使、国際テロ対策など緊急の安全保障の課題に対する具体的な解決策の展望は開けない。欧州では英国の欧州連合(EU)離脱の決定、フランスやドイツでポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭し、米国はトランプ政権によるアジア太平洋連携協定(TPP)の否定、温暖化対策の国際的枠組み(パリ協定)からの離脱検討など「自国第一」の傾向が鮮明である。
ロシアの軍事的脅威に直面するポーランドなど欧州防衛の要である北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議でトランプ大統領は集団的自衛権の行使を定めたNATO条約第5条への支持を明言しなかった。国連の安全保障理事会では北朝鮮に対する制裁は拒否権を持つ中国やロシアによって実効ある対策が進まない。国際経済面では、西側主導の国際通貨基金、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)に対抗して中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立、アジアから欧州にかけて国際金融の主導権確保に乗り出した。パラダイム変化の背景として第一に新興国家群の台頭がある。先進国に中国、インドなど新興国が加わる主要20カ国・地域(G20)首脳会議の発言力が強まった。米国の影響力の相対的低下が拍車をかける。中東地域の混乱に乗じたテロリズムの欧米、アジアへの拡大は大国の抑止力が働くなった証でもある。
変化の先頭に立つのは中国だ。陸と海のシルクロードで中国の影響力をアジアから欧州へ、アフリカへと伸ばそうとする「一帯一路」戦略をAIIBが支える。一方で欧州ではロシアによるウクライナのクリミア半島武力併合が、アジアでは東シナ海、南シナ海で中国による領海侵犯、人工島造成など国際法違反がまかり通るのが現実だ。20世紀前半の弱肉強食の世界に逆戻りである。米国プリンストン大学のA.フリードバーグ教授は中国が長期的に米国の立場を弱めるための「政治戦争」を仕掛けていると見ており、太平洋戦争中、大日本帝国が目指した大東亜共栄圏をなぞって「中華共栄圏」と名付けた。教授はアジアの国々がこれに引き込まれないようにするためには互いに利益になる貿易、投資の機会を最大限与えるべきだとして、TPPは「最も重要な戦略的利益」があり、これに代わるものはないことを強調している(上院公聴会)。
トランプ政権の危険性は保護主義への強い傾斜である。多国間協定よりも、自動車や農産物など米国の産業界にとって有利な2国間協定を主張してやまない。ムニューヒン財務長官は「保護主義の権利」とまで公言するが、自国の利益を追求するあまり世界全体を見ない傲慢さが鼻につく。第二次大戦後、米国が主導して作り上げてきた国際秩序の枠組みを自ら壊そうとしている。トランプ政権はそれが米国にも不利益になって跳ね返るのを自覚していない。包括的な戦略のないままに場当たり的政策で混乱を招き、足元では身内のホワイトハウス高官の「ロシアゲート疑惑」で政治的危機に直面している。米国は巨額の財政赤字でたびたび政府機能の停止、軍備削減に追い込まれ、世界的な影響力が低下した。このままトランプ政権が国際協調路線に背を向けて進めば、世界の不安感は強まり、米国に不利なパラダイム・シフトは急速に進むだろう。
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