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2017-05-31 00:00
馬脚を現した北のミサイル精度
杉浦 正章
政治評論家
大口を開けて馬鹿笑いをする金正恩のどアップは見飽きたが、今度ばかりは馬脚を現した。「7メートルの誤差」と「フェーク映像」である。朝鮮中央テレビは5月29日のスカッド改良型ミサイル打ち上げを報じて「操縦翼や小型エンジンでの速度制御で目標点に7メートルの誤差で正確に命中した」と報じた。しかし、軍事専門家の共通した分析では「7メートルの誤差はあり得ない」のだという。なぜなら米国の最新鋭ミサイルでも誤差は50mから80mであるからだ。本当かどうかは疑問だが、中国の対艦弾道ミサイル「東風」でも誤差は30mから40mだといわれる。7mをGPS衛星利用による誘導で将軍様が達成したのだというが、だいいち軍事利用できる人工衛星そのものを北は所有していない。商業用のGPSの“盗用”ではミサイル制御は不可能とされる。
なぜ7メートルとしたかというと、米空母打撃群の駆逐艦でも狙う能力があることを示したかったというのだ。さらに北朝鮮は地球の地形の中でミサイルが命中するコンピューター映像を放映したが、専門家は「あのような軌跡は間違いなく合成画像によるもの」だという。だいいち金正恩がミサイル発射を見物している部屋には、テレビのスクリーンは映っていない。軌跡を見るなら大きなスクリーンをいくつも設置したミサイル制御室で見るのが普通である。こうしたフェーク映像の放出はかえって北の“背伸び” を世界に露呈する結果となった。問題は北の側近技術者たちが、他国の技術者がみれば即座に見抜く稚拙な公表をなぜ行ったかだ。おそらく無知な金正恩に誇大性能を報告して、「将軍様のお手柄」とおだて上げ、自らの地位の保全を図ろうとしているに違いない。金正恩政権内部のごますり合戦が手に取るように分かる。
一方北の外務省は対日どう喝のレベルを一段と引き揚げた。「これまでは在日米軍基地に照準を合わせてきたが、日本がアメリカに追随して敵対的になるなら、我々の標的は変わるしかない」とすごんでいる。しかし今のミサイル精度では横須賀を狙っても八丈島に向かうレベルであり、東京駅を狙っても朝鮮総連に当たるレベルになるにはまだまだの水準だろう。金正恩の狂ったような中・小型ミサイル連発の背景には、米国がオスロの米北接触などを通じて、対話の働きかけをしたといわれることがその理由ではないかと思われる。ミサイルもICBMと受け取られるものの発射は避け、核実験も先延ばしにしている。ICBMや核実験を米国がレッドラインとしているのは暗黙の事実とされており、金正恩はそれが恐ろしいのだ。これは将来米国との会談へと発展した場合に備えて高値をふっかける戦術でもあろう。
対日どう喝も、いざ瀬戸際という事態になれば、日本が米国に「ミサイル攻撃を受けてはたまらない。ミサイル発射をやめてくれ」と泣きつくように仕向ける意図であろう。日本への攻撃は米軍事基地ばかりでなく大都市を狙う可能生を改めて示して、日本の世論を誘導し、日米分断を図ろうとしているのだ。しかし、もともと北は朝鮮労働党機関紙で攻撃対象を東京、大阪、横浜、名古屋、京都の5箇所を挙げ、また在日米軍基地として横須賀、三沢、沖縄を挙げてきている。いまさらうろたえる者はいない。見え透いた対応の背景には、米空母3艦隊に囲まれて、自らの寝首をかかれることを恐れる、小心な金正恩の姿が浮かびあがるのだ。ミサイル発射でもしないと夜も眠れない心理状態ではないか。故金正日が得意としてきた「瀬戸際外交作戦」を臆面もなく継承しても、もはや通用しないことを金正恩は一刻も早く悟るべきだろう。
こうした中で首相・安倍晋三が、韓国の大統領文在寅との電話会談で「北朝鮮とは対話のための対話では意味がない。今は北朝鮮に圧力をかけていくことが必要だ」と主張した。これは対話路線を重視する文にクギを刺したことを意味する。これに対し、文は先の先進7カ国首脳会議で北朝鮮に対する強い姿勢を示した首脳宣言が採択されたことに触れ、「安倍首相が主導的役割を果たしたことに感謝し、評価する」と答えている。当分文の公約である北朝鮮訪問はあり得ない情勢となっている。
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