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2017-07-22 00:00
(連載2)トランプ大統領は外交から手を引くべきだ
河村 洋
外交評論家
これらの外交上の失敗に鑑みて、私は、トランプ氏が東アジアで同じ間違いを繰り返さないことを望む。特に日本と韓国は北朝鮮危機への対処のためにも、そうした再保証を必要としている。ヨーロッパでもそうであったように、トランプ政権の閣僚達は良い仕事をしている。しかし、トランプ氏が極東を訪問するとなれば、彼の不用意な発言によって太平洋の安全保障パートナーシップに被害が及びかねない懸念がある。現在、東アジアは19世紀的な大国の競合が最も激しい地域である。トランプ氏の思慮分別を欠いた失言によって予期せぬ緊張が引き起こされかねない。特に歴史認識での不用意な発言は日中韓の関係を複雑にしかねない。トランプ氏がマール・ア・ラーゴでの会談で習近平主席の歓心をかおうとして中国の歴史認識を受け入れた際に、韓国が激しく反論したことは記憶に新しい。またアジアでカタールのような仲間外れの同盟国を出すなどは、もっての外である。
トランプ氏の無知かつ無配慮な失言は、マクマスター氏、ティラーソン氏、マティス氏にジョン・ケリー国土安全保障長官を加えた政権内の「大人の枢軸」にとって由々しきものである。その中ではマティス氏だけが独立した立場を維持している。また政権閣内で作成されたいかなる政策も、職業外交官によって実施され、アメリカの国益が守られている。彼らは、トランプ氏によってもたらされたダメージの軽減にあらゆる努力を惜しまず、諸外国との友好関係の維持に努めている。特に大統領がロンドンのサディク・カーン市長をテロリスト呼ばわりした際には、アメリカの外交官僚は一丸となってイギリス政界のトランプ嫌悪感を緩和し、米英両国の特別関係の維持に努めた。そうした外交官達による国家への献身にもかかわらず、それに対するトランプ氏の褒章は国務省予算の大幅削減であった。現大統領は明らかにアメリカの外交政策に関わる高官達にとってお荷物になっている。
トランプ氏は国家安全保障に重大なリスクであるが、ロンドン・スクール・オブエコノミックスのアン・アップルボーム客員教授は『ワシントン・ポスト』紙の7月23日付の論説で「外交に関する全ての権限をトランプ氏から取り上げることはきわめて危険だ」と主張する。行政手続き上はアップルボーム氏の議論は正しい。そこで同氏が取り上げているアフガニスタンで、マティス氏が駐留米軍の最高指揮権を全面的に一任されている例を見てみよう。アメリカ国内および海外の政策形成者達は、トランプ氏の国際安全保障に関する理解には大いに疑問を抱いているので、マティス氏の主導下で戦争が取り仕切られるなら歓迎との声もある。しかしアップルボーム氏は「これには制度上の問題がある。軍事テクノクラートによる外交政策では、政治的な正当性を欠く。民主主義下では戦略の実行も議会や他の省庁の支援を得ないと、実行不可能である。とくに、軍事戦略には他省庁との政策調整が必要で、ペンタゴンが全てを取り仕切ることはできない」と述べている。
しかし、省庁の枠を超えて問題を俯瞰し、正しい決断を下すには、トランプ氏はあまりに無能である。これが典型的に表れているのが、アメリカ外交における対外援助の価値に関する彼の無知である。実際にマティス長官、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長といった軍事のプロの方が、戦場での経験を通じて対外援助のような非軍事的側面の重要性をトランプ氏よりはるかによく理解している。閣僚の誰かが国家安全保障を主導するとなると、省庁間の調整が問題となるだろう。その場合はマイク・ペンス副大統領が現政権の外交政策を総括すればよい。ヨーロッパ、日本、韓国への彼の歴訪は、これら諸国がアメリカとの同盟関係に抱いた懸念の払拭に一役買った。外交実務に当たる官僚達は、自分達の職務に対するトランプ氏の無理解と統治能力の低さに辟易している。トランプ氏のG20出席は、世界の中でのアメリカの孤立を印象づけただけだった。その折にプーチン大統領と会談した後で、トランプ氏はロシアとのサイバーセキュリティ協力の強化を口にしてワシントンの安全保障関係者を驚愕させた。日本国民として、私はドナルド・トランプ氏には訪日して欲しくないと思っている。彼の不用意な発言で国際安全保障のリスクが高まることは、ヨーロッパと中東の例でも明らかだからである。(おわり)
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