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2017-07-31 00:00
米国の「拡大抑止」は機能するか
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮が7月28日深夜、大陸間弾道弾(ICBM)を発射した。防衛省によると45分間飛行し、高度3500km、飛距離は1000kmで北海道沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。7月4日のICBMより時間、距離とも伸ばし、通常の打ち上げ軌道なら射程は米西海岸のロサンゼルスに達する1万kmと推定される。金正恩朝鮮労働党委員長は「米本土が我々の射程内にある」と対決姿勢を露わにした。日米両政府ともICBMであると認定しており、安倍晋三首相は「日本への脅威が重大かつ現実のものとなった」と語り、トランプ米大統領は「米本土、同盟国を守るためすべての必要な手段を講じる」との声明を発表した。北朝鮮のミサイル開発は米国の予想を遥かに上回るスピードで進展、第6回核実験も予想され核弾頭付きICBM実践配備の脅威が迫っている。
米国は北朝鮮に対して「あらゆる選択肢がある」としている。しかし、外交面では国連安全保障理事会の新たな制裁決議は中国、ロシアの反対で進まず、中国企業が制裁の抜け穴になってきた。ティラーソン米国務長官は「中国とロシアは特別な責任がある」と協力を求めたが、両国は馬耳東風である。米国はB1戦略爆撃機を派遣し航空自衛隊や韓国軍との合同演習などで北朝鮮に圧力を強めたが、北朝鮮がとる瀬戸際政策できわめて危険な情勢である。疑心暗鬼や誤算から来る偶発的な衝突事件が戦争に発展しかねない。北朝鮮に対する先制攻撃は韓国や日本に対する攻撃を招き、核兵器が使われれば大惨禍は免れない。7月4日のICBMで局面が変わった。米国務省のソーントン次官補代行は7月25日に上院で「米本土に到達する核弾頭付き弾道ミサイルを成功させるという金委員長の決意の証」として「その計画の重大なエスカレーションである」と証言したばかりである。
だが、トランプ政権には正しい政策選択をする体制が驚くほど不備だ。ホワイトハウス中枢は大統領の最側近である首席補佐官の更迭や幹部辞任で混乱を極める。外交、安全保障政策立案・実施の要である国務、国防両省とも長官と副長官以外の次官、次官補(局長)のほとんどが空席である。日本も核・ミサイル危機の最中に、稲田朋美防衛相と次官、陸上幕僚長のトップ3人が辞任に追い込まれ、防衛中枢の立て直しが急務だ。韓国では対北融和路線の文在寅大統領が遅らせてきた米軍の高高度地域防衛(THAAD)ミサイルの早期配備にようやく転換した。北朝鮮の脅威をどれほど甘く見ていたのか、驚くほどである。日米韓3ヵ国首脳会談(7月6日)でトランプ大統領が「あらゆる種類の通常および核戦力により」韓国と日本の防衛に対する米国のコミットメントを再確認したのは、その2日前のICBM発射を受けたものであった。
北朝鮮が日本や韓国をミサイル攻撃した場合、米国は本当に核兵器による報復攻撃を決断できるだろうか?「拡大抑止」は有効に機能するか、という疑問は常に指摘されてきた。これは同盟関係の根幹にかかわる重大問題である。日本の安全保障問題専門家によれば、北朝鮮は2016年、先制軍事作戦の攻撃対象として第一にソウルの韓国大統領府、第二にアジア太平洋地域の日本を含む米軍基地と米本土を指定した。米軍基地が対象とはいえ、日本、韓国への攻撃に対して米国が本気で北朝鮮への核攻撃に踏み切るのかどうか。米本土を射程に入れたICBMはまさに米国けん制を狙ったものであろう。一方、米国による大規模な反撃で金体制が消滅するのは避けられず、金委員長は核攻撃には相当抑制的にならざるを得ないと見る専門家もいる。北朝鮮の核・ミサイル開発は金体制護持のための米朝直接交渉が本当の狙いだからである。それでも、危機の水準がかつてないほど高まったことは間違いない。ミラー米陸軍参謀総長は最近「時間切れになりつつある」と事態が切迫していると警告を発した。オバマ前政権の「戦略的忍耐」の失敗を批判してきたトランプ政権の対北戦略の真価が問われる。
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