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2017-08-28 00:00
「米中戦争」回避の大戦略は可能か
鍋嶋 敬三
評論家
世界の最大の課題はアジアでは「習の中国」、欧州では「プーチンのロシア」とどう付き合うかである。中ロとも全体主義的な強権政権で、第二次世界大戦後の国際関係を律してきた自由と民主主義、法に基づいたリベラルな国際体制とは真逆の行動が世界に緊張を与えている。これを裏で支えているのが米国の国力の衰えであり、トランプ政権が新たな戦略で体制を立て直さない限り、この傾向がますます強まり世界の混迷が深まるばかりだ。「中華民族の復興」を唱える習政権が経済力を背景に「一帯一路」政策でアジア太平洋からユーラシア大陸に至る影響力をますます強め、安全保障上の懸念が強まるばかりである。東、南シナ海で領土紛争での一方的な攻撃的姿勢はそれを端的に示す。
新興勢力の中国と、世界を率いてきた米国の間で「覇権」を巡るせめぎ合いが「ツキジデスの罠」として論じられるようになったのは、このような国際情勢の大転換を背景にしている。この問題については過去に本欄でも紹介したが、2015年に論文を発表した米ハーバード大学のG.アリソン教授は、米中関係を展望した「DESTINED FOR WAR」(副題は「米中はツキジデスの罠を回避できるか」)で、米中は戦争には至らないものの、双方の戦略観の違いから協調的共存がいかに難しいかを論じている。米RAND研究所の軍事研究(2015年)によれば、台湾や南シナ海紛争を含め、15年以内にアジアでは米国がその優勢な最前線から後退して行くという。中国は2040年には経済規模が米国の3倍になる試算もある。1972年の訪中で米中国交の扉を開いたニクソン元米大統領は晩年、側近に「我々はフランケンシュタインを生みだしたかも」と漏らしたとの話が残っている。中国がここまでモンスター化するとは思わなかったのだ。
中国の対米観についてアリソン教授は、米国の西太平洋における立場は衰えており、中国の取る行動は米国の後退を早めるよう努力することであり、南シナ海ではそれが最もはっきり見えるのだという。キッシンジャー元米国務長官ら中国指導部と会談した有力者はそろって、中国側が米国の戦略を「中国封じ込め」と信じていることも紹介されている。米ソ冷戦下では核の「相互確証破壊(MAD)」の相互抑止の下で核戦争が起きなかったように、米中間でも核戦争はあり得ない。しかし、経済的な相互依存が深まる中、「米中は分離できないシャム双生児」(アリソン教授)になった以上、双方が妥協するしか道はないという結論になる。米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」を発行する外交問題評議会のR.ハース会長も「A WORLD IN DISARRAY(仮訳・混乱の世界)」で現代の外交政策として「大国間の対立、紛争が国際システムの特長にならないよう協調する努力」を呼び掛けた。
中国の攻撃的な外交政策が共産党政権の「政治的正統性の新たな源泉」となる一方、貿易や投資へのリスクとなる。「中国の指導者がこのジレンマをどう解決するかが中国と世界にとって重要だ」とハース氏は指摘した。中国がなすべきは大国としての責任ある振る舞いである。国際法を順守し、国内では人権を尊重して国際標準の法の支配を確立することだ。米国がなすべきことも多い。軍事費削減で体力と士気が低下した軍事体制の立て直しが急務だ。第7艦隊のイージス駆逐艦2隻が相次いで大事故を起こしたのは無縁ではなかろう。トランプ政権の発足でますます激しい社会の分裂を止め、議会特に与党共和党指導部とも対立して、またも暗雲が立ち込める政治機能不全の解決が政権最大の課題である。何よりも大国として必要な一貫性のある戦略を作り上げなければならない。だが「米国第一主義」を掲げたトランプ政権では、「世界第一」のための大戦略を打ち出すのは望み薄かもしれない。
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