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2017-08-30 00:00
敵基地攻撃能力が不可欠となった
杉浦 正章
政治評論家
自己完結型の存在価値をレゾンデートルというが、今ほど日本が国家としての有り様(よう)が問われているケースはない。北のミサイルの報に、12の道と県が右往左往してなすすべがない。恐らくその様を見て西欧など世界の国々は唖然としているのではないか。国の安全保障を他国に委ねている結果がそうさせているのだ。北朝鮮の核ミサイル開発は平和が天から降臨する時代の終焉を意味する。天から降るのは核ミサイルだ。しかもそのミサイルは多弾頭化し始めた可能性すら高い。その意味するものは、発射されてからでは迎撃が困難になるということだ。今後のミサイル対策は、発射を察知した時点で叩く敵基地攻撃能力の保有が不可欠となったことを意味する。政府が国民の生命財産を守るというなら、専守防衛では十分な対応は不可能だ。基本戦略を積極防衛へと転換し、せめて巡航ミサイルや新型戦闘機F35に敵基地攻撃能力を保持させるという抑止力の保持が不可欠なのではないか。日本もなめられたものである。火星12号をグアム周辺に撃てば米国の攻撃が必至とみて、金正恩は襟裳岬東方を選んだ。外相河野太郎が指摘したように、「北朝鮮はひるんだ」のだ。
まず今回のミサイル発射で首相・安倍晋三が「ミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢をとった」と言明していることが何を物語るかだ。明らかに発射の瞬間から軌道を「完全に把握」していたのだろう。そして日本に落下するようなケースでは迎撃命令で破壊する予定であったに違いない。迎撃ミサイルの発射権限のある自衛隊の司令官に対して、安倍はおそらく「必要な状況となれば撃墜せよ」とミサイル破壊の指示を出していたと思われる。これを受けて司令官はイージス艦や地上配備の迎撃ミサイルにアラートをかけていたのだろう。しかし日本上空を通過するミサイルの高度が高く「迎撃する必要なし」と判断したのだろう。こうした判断が出来る背景には、ミサイル発射に関して確たる情報があったからとみられている。政府は28日までに平壌近郊で発射の動きがあることを探知しており、日本列島を越える可能性があることまで掌握していた模様である。このためイージス艦も事前に周辺海域に配備、陸上からはPAC3も対応できる状態であったといわれる。迎撃態勢を整えた上で、ミサイル発射を待ったというのが、実態であったようだ。安倍発言の裏には、相当の対応が進んでいたことをうかがわせるものがあったのだ。日米韓3国が共有の極秘情報であった。
しかし、この情報が漏れた以上、北朝鮮は今後ますますミサイル発射を掌握困難な場所から行うことになるだろう。したがって日米韓による情報収集活動が、極めて重要になる。そこで必要になるのは、発射して日本列島に届く前に発射基地を叩く敵基地攻撃能力である。敵基地攻撃能力の保有については、1956年に鳩山一郎内閣が「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」との判断を打ち出している。憲法上の問題はクリアされており、後は政治判断だけだ。既に自民党の安全保障調査会は3月に、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を踏まえ、敵基地攻撃能力の保有を政府に求める提言をまとめ、首相・安倍晋三に提出した。 調査会の座長を務めた小野寺五典は敵基地攻撃能力が必要な理由について「何発もミサイルを発射されると、弾道ミサイル防衛(BMD)では限りがある。2発目、3発目を撃たせないための無力化の為であり、自衛の範囲である」と言明している。安倍はこの小野寺を防衛相に任命した。就任後も小野寺はインタビューで、「提言で示した観点を踏まえ、弾道ミサイル対処能力の総合的な向上のための検討を進めていきたい」と前向きな姿勢を示している。
これに対して安倍は2月の時点では「どのように国民を守るかは常に検討すべきである」と前向きであったものの、最近では「具体的に検討を行う予定はない」と慎重姿勢に転じている。しかし、相次ぐ北の挑発に“無為”で過ごせば、国家としてのレゾンデートルが問われる段階に入る。同じ敗戦国のドイツの場合を例に挙げれば、国内には米軍の核ミサイルが20基配備されているとされ、有事に米独どちらかの提案を他方が受け入れれば使用できる、という共同運用体制を取っている。第2次メルケル政権で撤去が議論されたときがあったが、ロシアが配備している戦術核に対抗するためには必要という考え方が優勢を占め、オバマ政権も配備を継続した。トランプが信用おけないことから最近では保守系有力紙フランクフルター・アルゲマイネが、米国が欧州防衛を欧州自身に委ねることになった場合には、「ドイツ人には全く考えもしないこと、つまり独自の核抑止能力という問題」が起きる可能性もあると警告している。
やはりドイツの場合も対米信頼感が揺らいでいるのであり、日本でも同様だ。8月2日に紹介したように米国内には、米国が北朝鮮の体制を承認し、体制の転換を狙う政策を破棄して、平和条約を締結し、その際中距離核ミサイルは容認する、という“現状凍結”構想が台頭している。事実上の「日本切り捨て論」である。おまけに今回の場合も当初は国防総省の報道官が「北米にとっては脅威にならない」とまるで他人事のようなコメントを出した。大国は基本的にエゴなのであり、安全保障の全体重を米国に委ねるという歴代自民党政権の対応は、ここに来て、危うくなってきている。自国の防衛は主体的に自国で行わざるを得なくなるのではないか。そのささやかなる1歩が敵基地攻撃能力であり、早期に実現に移すべきではないか。実現させれば日米全体の抑止力も高まる。今解散総選挙のテーマとして浮上させれば、国民多数の理解も得られるのではないか。
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