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2007-05-09 00:00
新大統領下のフランスの動向
坂本正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
連休を利用して、フランスのバスク地方を旅行した。地方は寂れているとの指摘もあるが、地方道でも100キロのスピードが可能な上、幅広い道路沿いに、整備に100年はかかったと考えられる大きな街路樹の新緑のトンネルがつづき、フランスの富を印象づける。折りから、大統領選の直中で、テレビは対米関係の改善、経済構造改革、成長促進、移民問題などを焦点としていたが、サルコジ候補が国民の支持を獲得したのは妥当と考える。
パリで仏国際問題研究所、国際経済・情報研究所、戦略研究所、OECDなどを訪問した。印象の第一は、EUの中東欧拡大の成果である。EU統合の成果は90年代から、アイルランド、フィンランド、スペインなどの辺境国の高成長に示され、アイルランドの一人あたり国民所得は独、仏のみならず日本を超えているのに驚いた。21世紀に入り、バルト三国、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどの新規加盟の中東欧諸国の高成長が加わり、中心のドイツ、仏、伊の成長を支えている。域内を飛び交う資本の流れ、活性化する労働の移動がEU経済循環を高めているが、共通通貨の導入が、域内活動に大きな役割を果たしている。アジアの成長が喧伝されるが、4億5千万人を擁し、世界の新たな極の登場を予想させる。
第二に、冷戦中、フランスは核を持ち、ECを利用して、欧州での軍事・外交の主導性強めた。ソ連の脅威の消滅とドイツの統一はフランスの利点を低下させた。EUの拡大強化、ユーロの導入、EU軍構想などは、フランスの主導性回復のための対策だったが、必ずしも成功とは言えなかった。特に、一昨年の仏のEU憲法の批准否決、若者失業問題、イスラム系住民の争乱などはフランスの主導性を損ねた。しかし、最近のフランスは、欧州統合の成果に支えられ、成長の回復と失業の低下を示している。欧州中央銀行の政策はドイツ流の物価重視に傾斜していると、不満であるが、盛り上がる欧州の活力利用の経済改革は新大統領の課題である。また、EU憲法の再採択の動きが、メルケル首相から提案されているが、欧州での主導性回復の機会であり、対米関係改善と共に、新大統領の大きな課題である。
第三に、フランス国民は人口が増えていることを誇り、テレビでも、夫の育児協力の必要性を強調する。ただし、フランスの人口増加も統合の過程での移民人口の増加が大きい。イスラム系移民の暴動も、中東欧からの移民増加の摩擦が一因とされる。フランス人は、移民を歓迎し、その権利を公的には認める。ただし、それは、移民が多くの汚い仕事を行い(最近は高齢者介護)、実体的には差別を受け入れているからである。人口減少に悩む日本として参考にしたいが、移民の扱いに不慣れな日本がどこまでやれるかは疑問だ。
第四に、フランスは世界の多極化を主張し、従来は中国の将来についても好意的な意見が多かったが、今回は中国の国内矛盾を指摘する意見が多く、一党独裁の崩壊の意見もあった。また、アフリカでの中国の動きには神経質であった。なお、今回訪仏の驚きは、中国人の多さである。ラファイエットのお客は中国人、韓国人、日本人の順であり、ルーブルでは中国語が日本語の上位に掲示されていた。
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