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2017-09-22 00:00
(連載1)北朝鮮問題と駝鳥の平和論
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
北朝鮮のミサイル・核をめぐって、同国と米国の間でチキン・レース的なきわどい応酬がなされている。それに対するメルケル首相の批判は正しいのだろうか。また、日本国民はこの危機に、真剣に対応しているだろうか。北朝鮮は7月に2回、ミサイルの発射実験を行った。7月28日夜の発射の後、金正恩は、「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と述べた(毎日新聞)。それ以前に北朝鮮は、同国の大陸間弾道弾によって「アメリカ帝国は前代未聞の核惨禍の中で悲惨な終末を迎える」といった発言もしていた。そして、8月9日には、米軍基地のあるグアムから30-40kmの水域に、中長距離弾道ミサイル「火星12」4発を同時に着弾させると発表し、そのルートとミサイルが通過する日本の地名まで具体的に挙げた。ちなみに今年3月にも北朝鮮はミサイル発射実験を行ったが、日本の米軍基地が目標だと明言した。
これに対してトランプ大統領は8月8日、グアム周辺へのミサイル発射予告の直前に、「北朝鮮は、これ以上アメリカを脅かさないのが最良だ。さもなくば、北朝鮮は、世界が見たことがないような炎と怒りに直面するだろう」と警告していた。そして、北朝鮮のミサイル予告後の10日には「8日の発言は物足りなかったかもしれない」と述べ、北朝鮮への発言は脅しではないと強調して「グアムに対して何かすれば、誰も見たことのないような事態が北朝鮮で起きることになる」「北朝鮮が新たな大陸間弾道ミサイルの発射実験や核実験を行った場合は、武力行使も辞さない」との強硬発言を行った。同時にトランプは「対話の用意がある」との発信もしてきた。
この両者の発言に対して、ドイツのメルケル首相は北朝鮮だけでなく米国に対しても「誤った対応だ」と批判し「問題の軍事的な解決はあり得ない」と米朝双方に自制を求めた。つまり、武力行使による解決ではなく話し合いと外交による解決を求めた。外交的な対話以外に解決法はない、というメルケルの言は正論だ。しかし、彼女の考えには致命的な間違いがある。それは、状況によっては武力行使の現実の可能性を突き付けて、つまり「テーブル上に全ての選択肢」を置いて初めて、彼女の主張する「対話による解決」も可能になる、という政治のリアリズムの初歩を彼女は無視しているからである。メルケルは、中国や北朝鮮の問題が、日本にとってどれだけの脅威か、リアルには理解していない。中国に親密な姿勢を示す彼女にとっては、南シナ海、東シナ海問題も、北朝鮮問題も、「遠いアジアの紛争」に過ぎないのだろう。今回のトランプの強硬発言は正しかった。ただ問題は、大統領に安定した戦略思考が見られないことだ。側近の頻繁な入れ替えがそれを示している。
尤も今日の時点では、たとえ「解決」が可能になるとしても、残念ながら北朝鮮の核廃棄は、無意味な(というより逆効果の)「6者協議」などで何年も無駄にしたため、すでに絶望的である。ただ今後、対応次第で北朝鮮に一定の譲歩をさせることは可能だ。事実、「グアムに向けてミサイルを発射したら武力攻撃も辞さない」とのトランプ発言に対して、8月14日に金正恩は、「米国の行動をもう少し見守る」と述べた。これは米国の強い決意の前に、世界が注視する中で金正恩が屈服し譲歩した訳で、彼にとっては大きな屈辱だ。トランプの対応に彼が屈したのも、今年4月に米軍が地中海からシリアの空軍基地(ロシア空軍も使用)に59発の巡航ミサイル・トマホークを打ち込んでいたからだ。つまり、算盤勘定のディールしか関心がないと見られていたトランプも、オバマと異なり、いざとなったら武力行使することを示していたからである。メルケルが批判したように、もし米国が「話し合いの解決」のみを予め宣言していたなら、また日米間の軍事協力や日本海での米韓合同演習、THAADミサイルの配備などもなかったなら、北朝鮮を譲歩させることは出来なかっただろう。(つづく)
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