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2007-05-10 00:00
北方領土返還の道筋が見えてくる
宮脇磊介
初代内閣広報官・宮脇磊介事務所代表
冷戦終結後、世界中いたる所で状況が激しく動いている。重大な事件・混乱が発生し、思いがけない新たな政策決定が打ち出されたりして、世界の動きを伝える新聞の国際欄には読者の理解力を超える夥しい記事が溢れている。日本のメディアは、こと外交、安全保障など国際関係の解説には、冷戦終結以前から高い知名度を持つ学者、評論家に依存し、特に北方領土問題については、その傾向が強い。彼らは、過去の歴史上外交上の経緯(いきさつ)や国際法に精通しているだけに、それにこだわり、新しい情況に柔軟に対応できず、日ロ関係の新たな動きへの日本の論壇の動きの鈍(にぶ)さがもどかしい。今は北方四島返還に道筋をつけるまたとない環境にあるのだ。
昨2006年9月9日、プーチン大統領と各国のロシア専門家との懇談会がモスクワで開かれた。その席上でのプーチン大統領の北方領土問題に関する発言は、日本国民すべてが知っておかなければならないものであった。「日ロの間には領土問題が存在しており、これを解決したいと私は考えている」と述べ、さらに「私は本気で考えている」とまで言っているのである。そしてその後、イワノフ第一副首相の択捉島視察やプーチン人脈有力者ヤーノフ氏の訪日をはじめ日本に関連する活発な動きが次々と報道されているところである。
北方領土問題を解決するために、なによりも考えなければならないことは何か。それは、ロシアが現在から将来にかけて置かれている国際環境であり、その中から北方領土と引きかえに必要としているロシアの国益を見出すことである。
ヨーロッパでは、NATOやEUの東方拡大に対してロシアはパイプラインの元栓を締めるエネルギー戦略で対抗している。また、米国が行おうとしているポーランドとチェコへのBMD(防御用ミサイル)配備に対しては反対の姿勢を貫いてきた。一方、アジアでは、強大化のためには何でもやりかねない中国と長大な国境を接している。東シベリアには豊富な資源があり、沿海州は東アジアの海域に面している戦略的に枢要な位置にありながら、これらの地域のロシア人の人口は減少し、反対に中国人や朝鮮族の進出が著しい。21世紀はアジアの世紀である。ロシアの発展には、資源エネルギー戦略とあわせて海で結ばれる東アジアの国ぐにとの戦略的関係の構築に目が向けられているところであり、経済大国日本との資源エネルギー開発と東アジアの安全保障上の協力関係は、ロシアの国益上最重点でなければならない。だが、太平洋への正面玄関に領土問題が在るのだ。
ツアーリの再来といわれる強権を内外に示しながらも80%の高支持を得ているプーチン大統領は、日本に対しては格別の理解を示している。大統領自ら柔道の稽古に今でも励む。モスクワ郊外の公邸には、ロシアで高名な彫刻家の作による嘉納治五郎初代講道館長の胸像があり、親しい人に「今日の自分があるのは、この人のお蔭だ」と語る。二人の息女は、屡々、日本を訪れてショッピングや観光を楽しむ。二女は、大統領の母校サンクトペテルブルグ大学東洋学部日本語学科に在学。大統領夫人は、和服の着用を好む。
対する日本の安倍晋三総理、麻生太郎外相、谷内正太郎事務次官のトリオへのプーチン政権担当者の信頼感は大きい。このタイミングを逃すことはない。日本は、過去の歴史的経緯などでやり合っていたソ連時代の外交方式から、21世紀の世界の平和と繁栄に向けて日本とロシアが広く深く共同歩調をとるという戦略性ある関係構築を目指し、それをプーチン大統領に示すことが、北方領土問題解決の道筋なのである。
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