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2017-10-05 00:00
(連載1)中央アジア、中東、EU問題から国家の意味を問う
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
今、中東ではクルド人問題が注目されている。第1次世界大戦の後、もともと今日のような国民国家や国境が存在しなかったアラブ、イスラム地域(主としてオスマントルコ領)に、列強が勢力圏を決め、人為的に国家を作り、国境を設けたのが原因だ。そのため、現在でも約3000万人のクルド民族は、イラク、イラン、トルコその他の国に分割されてしまった。彼らが国際的な民族意識の高まりの中で、また中東諸国の政治的不安定の中で、民族独立と国家形成の運動を強め、各国政府と衝突しているのである。
歴史的に見ると、人為的な国家設立や国境画定が深刻な諸問題を生んでいると言うのも正しい。わが国では「国家=権力=悪」といった観念が広く浸透しているが、ではこのような国家形成自体に問題があったのだろうか。そもそも、国家の存在そのものが、戦争、紛争や暴力の原因なのだろうか。グローバル化の時代には、民族問題やそれに絡む紛争は、国際法、国際機関や何らかの超国家機構によって解決できるのだろうか。紛争と国家の関係について、最近の国際社会のクルド問題以外の具体例も参考に考えたい。
26年ほど前にソ連邦が崩壊して、15の独立国家が成立したが、この場合も、新たに独立国家が突然に形成されたが故の諸問題が生じている。2つの例を挙げる。近年カスピ海沿岸諸国が同海での「海軍」力を強化している、と言えばジョークに聞こえるがこれは事実だ。カスピ海は、日本の面積ほどある世界最大の湖で、沿岸諸国は海底パイプライン建設や資源をめぐって利害が対立し衝突している。したがって諸国は国益を守るために、「海軍」力を強化しているのだ。これはソ連邦崩壊後、カスピ海沿岸に幾つもの独立国が生まれたが故の新たな問題である。
中央アジアでも新たな紛争が生じている。日本人はイスラム圏の中央アジアというと、同じ文化と宗教を共有し、比較的まとまった安定地域と考えがちだ。しかし、ソ連邦崩壊後に独立したそれぞれの国は、資源、国境、鉄道建設、麻薬、密輸などの諸問題に関して、国益中心で利己的に動いている。例えば、水を巡る対立も深刻だ。中央アジアには、アムダリヤ、シルダリヤという大河があるが、上流国(キルギス、タジキスタン)が発電用の大きなダムを建設すると、下流国(ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン)では、農業用水などに深刻な影響が出るのだ。したがって、例えばウズベキスタンとタジキスタンは、ダム建設などをめぐって一時は国交断絶に近い状態に陥り、戦争寸前にもなった。このような問題は、ソ連時代には上部の共産党と中央政府が強力に統制していたので、深刻にはならなかった。つまり、ソ連邦が15の独立国に分割されると、それまでは顕在化しなかった諸問題が噴出したのである。ちなみに、中央アジアのフェルガナ盆地は、ソ連時代に確定された人為的な国境線ゆえに、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの領土が複雑に入り組んでおり、現在では民族問題の坩堝、イスラム過激派の温床となっている。(つづく)
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