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2017-10-20 00:00
北の“貢献”で自民の選挙戦が有利に
杉浦 正章
政治評論家
隠れて見えない「影」から衆院選で自民党を応援してくれる国がある。どんどん応援しても外国だから公職選挙法違反にならない。貧乏国だから資金援助はないが、トップや幹部の発言が全て票に結びつく。与党にとってこんなありがたい国はないのが北朝鮮だ。最近一番利いたのが外相李容浩が、「金正恩委員長が声明で言及した『超強硬対応措置』とは過去最大の水爆実験を太平洋上ですること」と言明したことだ。防衛相小野寺五典は「水爆を運搬する手段が弾道ミサイルであれば、日本上空を通過することも否定できない」と応じたが、これを聞いた有権者は自民党に投票しようと“決意”する。なぜかと言えば傍若無人にも日本を超えたミサイルで日本の庭の太平洋で水爆実験を行うなどと言うことは、国民感情の琴線に触れる最たるものだからだ。多くの国民は、野党、とりわけ立憲民主、共産、社民の各党は北朝鮮と同じ社会主義に根源を発していることもあり、北に関して何を言おうと信頼できない傾向がある。希望の党も大挙して元社会党の民進党から押しかけているから油断が出来ない。やはり頼りになるのは自民党ということになってしまうのだ。
安倍も抜け目がない。歴代首相は、“ありがたい票田効果”が北朝鮮にあるのに気がつかず、手を付けなかった。しかし、安倍は国連総会で北朝鮮対策一色の演説をした流れをそのまま、選挙戦の演説に直結させた。安倍は北朝鮮のミサイル発射について「動きを完全に捕捉している。私たちは、しっかりと国民の命と幸せな暮らしを守り抜いていく」と訴え、米国とも連携していることに触れ、「強い外交力で核・ミサイル問題や拉致問題を解決していく」と主張。経済制裁を強化していることについては「しっかり圧力をかけ、政策を変えさせていく」と理解を求めた。聴衆の中からは批判勢力が秋葉原の例にならって「やめろ」のシュプレヒコールを繰り返すケースがあるが、最近では一般の聴衆が「選挙妨害だ」「黙れ」と憤りの声を上げる事例が相次いでいる。
野党各党は、この最大の争点になっている北朝鮮問題には触れないようにして演説を展開しているが、これがまた信用がおけないということになる。安倍が強行突破した安保法制についても、今ほど必要とされている時はない。同法制に基づき政府は自衛隊の艦船で米軍の補給艦を守る平時の米艦防護や、補給艦による米軍イージス艦への給油を行っている。公式発表がないケースも増えてきているようだ。こうした政府の「日米共同作戦」に対して、批判すれば野党は不利になるとみて沈黙を続けている。確かに「給油反対」などと言える雰囲気ではないからだ。そもそも野党は安倍政権が成立させた安保法制には反対であり、共産、社民は「安保法制は憲法違反。廃止を求める」と選挙で主張することになっているが、公言はしない。しかし選挙民の選択は共産党を“マイナス成長”にさせようとしている。減りそうなのだ。一方立憲も「北朝鮮対策としては個別的自衛権で対応できる。領域警備法と周辺事態法の強化で対処出来る」としているが、今そこにある危機に対しては説得力がない。まさに北朝鮮問題で野党は時代錯誤の極みの状態にあるのだ。
そもそも根本的に与野党が異なるのは、自民党が北朝鮮への圧力に重点を置くのに対して、野党は対話に重点を置く傾向にあり、その基本姿勢の差は大きい。具体的には自民党が「全ての核ミサイル計画を放棄させる」としているのに対して、立憲は「北をテーブルに着かせるための圧力を強める」としている。この主張は、空想的社会主義のからが抜けないのか、今そこにある危機に対して空想的で現実感が伴わない。話し合いに応じない金正恩に対して「話し合いを」という空々しさと無責任さを感ずる。一方、憲法改正への取り組みも、安保がらみで各党主張が異なる。与党も割れる。自民党が9条に自衛隊を明記する方向での改正を主張しているが、公明党は「多くの国民は自衛隊を憲法違反と考えていない」として消極的だ。安倍も「国会の議論を活発化させるために投じた一石」として、それほどこだわる気配がない。従って、総選挙の大きな争点として浮上しているとは言えないだろう。このように、最近では珍しく北朝鮮が、大きなテーマとなっているが、野党の主張が総じて現実性に乏しく、与党側を有利に導いている事は確かだ。とりわけ18歳選挙権で若い世代が選挙に影響を生ずる傾向が増えることが予想されるが、高校、大学生は北に対して「むかつく」と反応する傾向が強い。若い世代ほど右に寄っているのが世論調査でも如実に現れている。その作用が大きい気がする。
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