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2017-10-23 00:00
第4次安倍政権の課題
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
2013年の参議院議員選挙に引き続いて、昨日の衆議院議員選挙でも自民党、公明党両与党の勝利で、11月1日に予定されている首相指名選出による第4次安倍政権は、その政策遂行上不可欠な安定的な政治基盤を確保した。野党では、「立憲民主党」の躍進と「希望の党」の伸び悩みは、立候補者はもちろんのこと、多くの選挙民にとっても予想外であったであろう。しかし、日本の現状には懸念材料が多々あることは、国民はもとより、各政党が自他共に認めているところである。安倍政権はアベノミクスの中核にある経済成長優先政策に基づき、「第1の矢」である金融緩和政策を2012年暮れ以来続けているが、求人求職倍率こそ上昇しているものの、不定期労働者の雇用増も反映して、雇用労働者全体の給与上昇は微小ないし皆無に留まり、家計消費も低迷する中で2%のインフレ目標は達成されていない。それどころか、2012年以降の「円安傾向」が今後も継続し、輸入物資の価格高騰傾向は、今年も気候変動による雨季の長期化と暴風雨の激化と共に、食糧価格の上昇をもたらし、若者や中高年金生活の低所得者にとって不安材料となっている。また円安傾向がもたらすコスト上昇が我が国企業の国際競争力の一層の低下をもたらすのではないだろうか、という懸念も見え隠れしている。既に、熾烈な国際競争に直面している日本の大企業の大半は、海外の安い労働力、土地、税率、低い環境・労働規制等を求め、さらに中国やインドに見るように急速な経済成長による市場の拡大を求めて、国内投資よりも海外直接投資を通じた企業の成長へ重心を移しており、少子高齢化と相まって日本経済の長期的な成長への阻害条件となっているのも現実の姿である。
2015年秋の国連総会で、国際社会は「持続可能な開発目標=SDGs2016-30」を採択し、先進国を含めた世界の国連加盟国すべてがその目標を達成するよう訴え、我が国もそのための国内実施計画を昨年発表し、現在推進している。ユニセフは、今年も子どもに関する9つのSDGsの国別達成度を公表している。この発表によれば、我が国は比較可能な37か国中、(1)貧困撲滅で23位、(2)飢餓の解消で1位、(3)健康保全・福祉で8位、(4)質の高い教育で10位、(5)質の高い就労で1位、(6)格差の縮小で32位、(7)持続可能な都市と住環境で33位、(8)責任ある消費と生産で36位、(9)平和で包摂的な社会で8位、とそれぞれなっている。総ての目標達成度で1位という国はないが、総じていえば、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダ、アイスランドといった北欧諸国に加え、スイス、オーストリア、ドイツ等が比較的に高い順位を占めている。この国際比較から見ると、我が国は単に経済成長、個人所得の向上、物質的豊かさに目標を定めるだけでなく、環境保全を初めもろもろの社会開発目標の達成を重視すべきであることがわかる。一方で、その順位に安住することなく、他方で、今後一層その達成のために意識改革、政策、法制、仕組みづくりに積極的に取り組まなければならない。
また、安倍政権の「第2の矢」である財政政策では、国債・地方債を含めてその債務残高が現時点で既に我が国GDPの2倍を上回っている。今回の選挙公約に見られた消費税率引き上げを含む税制改革や少子高齢化の中で大幅増が見込まれる社会福祉支出や厳しい安全保障環境の中で増えつつある国防支出等の合理化が、プライマリーバランスの黒字化を2020年までに達成するという財政再建への軌道は愚か、果たして2025年までにも逸脱しないようにできるのかどうかも不安材料である。さらに、日銀の国債保有高が毎年の国債発行額の50%を上回る大幅な赤字財政の継続の中でおこりうる債券価格の暴落と長期金利の上昇は、日本経済の中長期的安定を損なうだけでなく、外国ヘッジファンド・投資家の資金運用が誘発する株式市場の上下混乱を制御できるのかどうかも心配であろう。加えて、「第3の矢」である成長戦略が有効に機能するために膨大な既得権の排除や規制緩和が抜本的にとられるかどうか等が、今後の国内経済政策の形成・運営上で現在最も問われている重大な課題であろう。TPP協定からの米国の離脱や今月のニュージーランド総選挙における労働党の勝利でTPP11から10になる可能性が大きいが、このTPP協定の締結が再三延期になったのも、一つには我が国の長年に亘って諸々の既得権益に甘んじてきた集団の反対に遭遇したからである。岩盤を崩すには、一方で強力な政治的指導力が不可欠であるが、それ以上に、特定産業の生産者の立場よりも、消費者の立場を優先する方向への国民一般の意識改革、すなわち下からの要求が重要である。もちろん、東京電力福島原子力発電所の爆発に伴う山、河川、海の汚染のみならず、田畑や都市における放射能をおびた土壌の除染作業の効果や使用済み核燃料の適切な処分に目処が立たない現状や2015年のパリ条約の締結により世界的に叫ばれている長期的な脱炭素自然エネルギーへの政策転換の欠如の中で推進されている原子力発所の再稼働問題も、今回の選挙戦でわかるように、一般国民にとっての重大な懸念材料である。
世界に目を転じれば、日本を取り巻く国際情勢が大きく変化しつつあるなかで、平和憲法の改訂、特に第9条の改訂は、今回の選挙戦で安倍政権、自民党が国民へ問いかけた最も大きな課題であった。衆参両議院の憲法審査会へ改憲案を今年から来年にかけて提出し、国会での議論を通じて国民的合意を図ろうとしているが、この問題はひとり我が国だけの政治課題ではない。日本にとって、経済的にも、安全保障面でも最も重要な隣国である韓国、中国なども多大の関心を有しており、これら両国との間で、歴史認識の違いに基づく外交関係への悪影響で、三国間首脳会議もここ数年開催されていない状況を考えると、改憲問題への対処の仕方は、日本国民のみならず、韓国、中国を初めとするアジア諸国、さらには同盟国である米国や豪州等にとっても大きな関心を寄せる課題である。北方領土をめぐるロシアとの外交関係も気になる点である。このように考えると、今回の選挙の圧勝に奢ることなく、また衆参両議院での圧倒的多数の獲得も民主主義政治にとっては、一歩間違えれば大きなリスクにもなりうることを肝に銘じなければならない。これらの国内外課題への早急かつ適切な対応を通じて、政治の安定、国民福祉の改善、基本的人権の擁護、地球環境の保全、核なき世界平和を望んで選挙へ行った国民の信頼を得ることこそ、第4次安倍政権の最大の課題であろう。
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