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2017-11-07 00:00
トランプ「極東冷戦」俯瞰の戦略再構築
杉浦 正章
政治評論家
この空前絶後の日米首脳の協調ぶりが意味するものは何か。裏には長期の「極東冷戦」を俯瞰(ふかん)した米国の戦略再構築がある。焦点の安全保障で大統領トランプは首相・安倍晋三が主張していた「自由で開かれたインド太平洋戦略」にあえて丸乗りして、オバマの「戦略的忍耐」を帳消しにした。懸念された貿易摩擦も「兵器購入」という隘(あい)路で納得した。なぜかといえば両首脳による「北への圧力を最大限まで高める」合意で、まず基本戦略を固める必要があったのだ。日米を固めることが不可欠の前提であったのだ。日本を最初の訪問国としたのもこの戦略を進めるに当たっての基礎固めが必要であったのだ。日米会談の成功は、北朝鮮に接近しかねない韓国大統領文在寅を抱き込み、隙あらば東・南シナ海への海洋進出を目指す中国の習近平をけん制し、北への関与を促す態勢を整えたことになる。良好なる日米関係が礎になるのだ。
安倍トランプ合意に基づいて今後日米両国は「国際社会全体で北朝鮮への圧力を最大限まで高める」(安倍)というギリギリの対応に出る。日米両国は国連制裁の完全履行や外交、軍事をフルに活動して北への包囲網を一段と強化する。まさに圧力を臨界点まで高めて金正恩が音を上げるまで追い詰める。しかしトランプの「残り時間は少なくなっている」という発言は、必ずしも戦争を意味するものではない。逆に安倍の「日米は100%共にある」という発言が意味するものは、「100%戦争に協力する」ことでもない。むしろ日本の判断なしに米国が一方的に戦端を開くことへの戒めでもあるのだ。いったん戦端を開けば、日韓両国民の生命は北の“人質”となりかねない状況下である。トランプはまず軽挙妄動に出る事はないだろうが、合計9時間半にわたった会談で、安倍はその辺の機微を語ったに違いない。安倍が記者会見で漏らした「誰も紛争など望んではいない。北朝鮮が『話し合いたい』と言う状況を作る。私もトランプ大統領もそうだ」という発言が全てを物語る。従って北の暴発や何らかの偶発事件の発生は別として、圧力の先にあるのは金正恩のミサイル、核実験をストップさせ、放棄させるという一点に絞られるのだろう。
そのカギを握るのは紛れもなく中国である。第19回共産党大会を見る限り、南シナ海への基地建設を誇示するなど習近平の舞上がり方はただ事ではない。今後日米は一致して豪州やインドなど主要国に働きかけて「インド太平洋戦略」を展開する。その視線の先にあるのは紛れもなく習近平の「一路一帯」構想に対する包囲網である。トランプは習近平との会談で北に対して本腰を入れた制裁を強く求めるものとみられる。さらに東・南シナ海への進出をけん制するだろう。またトランプは記者会見で「中国は何十年にもわたって、不当だった。非常に大きな貿易赤字が米国に生まれた。年間40兆円にのぼる貿易赤字があり知的所有権の問題もある」と強く対中批判を展開している。トランプの対中牽制外交は貿易赤字問題を突破口にするものと思われる。総じて米中対峙の構図は歴史的必然である。中国がトランプに行うであろう「国賓以上の待遇」に惑わされてはならない。安倍が記者会見で「考えに賛同する国があればいずれの国でも共同してやって行く」と言明したのは中国を意味しているのだろう。リップサービスで余裕のあるところを見せたが、自由貿易の見本のような組織に中国が入るかどうかは定かでない。
対中貿易赤字と比較して米国の日本との赤字は7-8兆円程度であり、トランプにしてみれば、狙いは中国に定めている気配が濃厚だ。しかしトランプは手ぶらでは帰れないから記者会見で日本に対して「首相はさまざまな防衛装備を米国から購入することになる。日本が大量の防衛装備を買うことが好ましいと思っている。そうすれば多くの雇用が生まれるし、日本がもっと安全になる」と武器購入を促した。総じてトランプの発言は日本の武器購入の実態を知らないで述べている感じが濃厚だった。むしろ“アリバイ作り”の側面がある。これに対して安倍が「大統領が言及されたように、F35A戦闘機もそうだし、SM3ブロック2A(弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル)も米国からさらに導入することになっている。イージス艦の量、質を拡充していく上で、米国からさらに購入していく」と述べた。もともと購入予定があるのだ。まあ、トランプにしてみれば米国民を納得させるために「安倍に武器購入を表明させた」という、“構図”がほしかったのだ。さらに経済問題で重要な点はトランプが、一部で予想されていた2国間の自由貿易協定(FTA)交渉を求めなかった事だ。これは韓国とのFTA交渉が難航している上に、中国の赤字問題があり、日本にFTAを求めたら、旅行の主目的が日韓中と“貿易戦争”をする結果となりかねない。これは米国の極東戦略からいっても得策でないという算段があるのだろう。貿易問題は副総理麻生太郎と副大統領ペンスとの会談に委ねられることになる。継続協議の形だ。総じて今回の日米会談は、アジア情勢の緊迫化と安倍の緻密な歓迎スケジュールが効を奏して、「我(が)」の強いトランプが自らのペースを自制した形となった。それにしても読売は5日付けで「朝鮮半島有事、邦人退避協議へ」とトップ記事を書いたが、筆者は大誤報だとみる。会談の流れは戦争回避であり、退避方針は決めようがない。7日付け解説記事の片隅で「退避策など突っ込んだ意見交換をしたとみられる」にトーンダウンしながら固執しているが、噴飯物の誤判断だ。読売のセンセーショナリズムもいいかげんにしてもらいたい。
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