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2017-11-07 00:00
インド太平洋戦略の基盤固め
鍋嶋 敬三
評論家
トランプ米大統領が10日間におよぶアジア歴訪の第一歩を日本で踏み出したことは日米双方の外交戦略上、大きな意味があった。11月6日の日米首脳会談で「自由で開かれたインド太平洋戦略」という安倍晋三首相の外交戦略をトランプ氏も共有し、米国のアジアからの後退という懸念を払拭する有効打になるからである。トランプ・アジア外交の基調としても有意義であろう。日本にとっても、核・ミサイル・拉致問題など北朝鮮の脅威対応だけでなく、対韓国、中国など緊張要因をはらむ隣国関係においても米国との戦略の共有によって外交的立場を一段と強めた。アジア太平洋地域の地政学に影響を与える具体的成果である。
このような結果は濃密な安倍・トランプ関係を抜きにしては生まれなかった。大統領選挙直後の非公式会談以降、首脳会談5回、電話会談16回という世界各国の指導者の中でも群を抜く親密な関係が良好な日米関係を支えることになった。かつては小泉純一郎・ブッシュ両首脳の強い個人的な信頼関係によって、厳しい経済対立も大統領が国内の強硬派を抑えて火を噴かなかった。安倍・トランプ会談では北朝鮮と貿易問題が二大テーマであった。北朝鮮に対しては日米が主導して「最大限の圧力」をかけることで完全に一致。日米韓3カ国の協力の重要性、中国による圧力強化でも二人の息がピタリと合った。トランプ大統領が拉致被害者の本人や家族と会見したのも問題の深刻さの認識、それをもたらした安倍首相への信頼の強さを物語る。
経済問題でトランプ氏は「貿易不均衡を是正し」「公正、自由、互恵的な貿易関係」を強調したが、日本との自由貿易協定(FTA)には言及しなかった。日本側は麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領間での日米経済対話をFTAに対する「防波堤」にする腹だ。しかし、トランプ大統領は対米貿易赤字が最大の中国に対しては「互恵的貿易が最も重要だ」と述べ、記者会見で「互恵的」を何度も繰り返したほど貿易不均衡是正への執着をあからさまにした。日本も楽観はできない。トランプ氏が離脱を決めた環太平洋連携協定(TPP)を11カ国で合意すべく交渉が大詰めを迎えており、安倍首相も会見で「アジア太平洋における水準の高い秩序作り」を強調した。TPP11 は最終的には米国の復帰を促す環境作りの意味もあるが、米国を多国間協調主義に引き戻せるかどうかは未知数だ。
トランプ政権の国際安全保障政策では、「米国第一主義」を掲げた大統領選挙当時の孤立主義的傾向が政権発足後半年を経て現実主義路線に回帰しつつある。共和、民主両党を含めた歴代政権の伝統的な戦略と大きくかけ離れてはいないと米国の政治学者たちは分析している。これはトランプ・ホワイトハウスの首席補佐官、さらに国家安全保障担当補佐官や国防長官など安全保障のトップチームが現実主義に立つ歴戦の将軍たちによって占められていることを反映している。ロシアの脅威に直面する北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と批判してきたトランプ氏が集団防衛条項を再確認して欧州を安心させたのはその一例だ。アジアにおいては米中間のバランス・オブ・パワーが覆らないようにすることが大きな課題である。日米の同盟関係を軸に韓国、オーストラリア、インドなどとの共同演習や装備の供与などを通じた「幅広い安全保障協力のネットワーク」の構築を共和党有力者であるマケイン上院軍事委員長の外交顧問をかつて務めたR.フォンテン氏が提唱している。日米首脳が一致した「インド太平洋戦略」はまさにそのような柔軟な地域安保構想のベースになるのである。
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