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2017-11-13 00:00
アジア危機転換の要は日米中関係
鍋嶋 敬三
評論家
衆院総選挙で政権基盤を固めた安倍晋三首相、初のアジア歴訪に乗り出したドナルド・トランプ米大統領、そして中国共産党大会で毛沢東以来の権威付けに成功した習近平国家主席。日米中3カ国首脳による11月初旬の首脳外交はアジアの将来に大きな意味を持つことになった。ベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)と環太平洋連携協定(TPP)閣僚会議、これに続くフィリピンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)と東アジア首脳会議(EAS)にも日米中3カ国が否応なしに大きな影響力を持つ。2017年秋は良くも悪くも地域情勢にとって転換点になることは間違いない。そのベースラインを作ったのは11月6日の日米首脳会談である。核・ミサイル危機を作り出した北朝鮮に対しては圧力を最大限に高めるとともに、安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」を日米共通の外交戦略にすることで一致した。これは中国共産党の党規約に盛り込まれた巨大経済圏を目指す「一帯一路」政策に対する対抗軸の狙いもある。
北京での米中首脳会談(11月9日)は思惑の相違を舞台の奥に引っ込め、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議の「厳格な実行」で一致、協調を演出して見せた。しかし、トランプ氏が中国に対し金融や貿易で一層の圧力強化を求めたのに対し、習氏は「対話と交渉による解決」にこだわり、すれ違いが歴然とした。中国は航空機の買い付けなど2500億ドル(28兆円)に上る商談を成功させ、米国による対中貿易赤字の批判をかわしたが、貿易不均衡是正の本質的解決にはほど遠く、米中間の緊張の震源であることに変わりはない。しかも、習氏はトランプ氏に「太平洋は広大で中米両国を受け入れられる」と伝えたことを明らかにし、太平洋地域の二分割支配の意欲を隠そうともしなかった。
ベトナムでAPECの場を利用した日中首脳会談(同11日)では、習氏が「日中関係の新たなスタート」と語り、安倍首相も「私も同感だ」と応え、日中関係改善を確認した。2018年に日中平和友好条約締結40周年を迎えるが、首脳の相互訪問を確認したことは重要だ。東シナ海での偶発的な衝突を防ぐための「海空連絡メカニズム」の早期運用開始のための協議を進めることで一致した。この問題は領土主権にかかわるだけに原則合意だけで協議が進まなかった。首脳合意による進展を期待したい。北朝鮮の非核化問題は、将来の朝鮮半島統一の可能性も展望した時に、米国と中国の役割が特に大きい。これは日本の安全保障に直結する問題だけに日本の立場を反映させるため、米国はもとより中国とも連携を深めることが不可欠である。
日米、米中、日中の一連の首脳会談は北朝鮮の核武装という「時限爆弾」を抱えているアジアにおける3カ国それぞれの戦略構想に影響する。ワシントンのカーネギー平和財団が核戦力を持つ米中両国の戦略と日本の関わりについて3カ国の安全保障問題研究者が討議した報告を米中会談直前に公にした。専門家の間でさまざまな意見が交錯する中で、北朝鮮の核・ミサイル計画が日本や韓国など米国の同盟国による対応措置を促し、それがさらなる中国の反応を刺激する(安全保障のジレンマ)ところから、米中間の戦略的安定に対する最も直接的で厳しい脅威になっていると指摘した。日本の懸念は地域の軍事バランスがますます中国有利に傾いていることにある。日中双方が信頼醸成措置や危機管理の方策を探求するなら、それぞれの安全保障のジレンマを軽減することにつながる、としている。首脳合意を反映して「海空連絡メカニズム」が実際に運用にこぎつけて、尖閣諸島が位置する東シナ海の緊張緩和に向かうことができるかどうかが中国の真剣度を測るリトマス試験になる。
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