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2017-11-15 00:00
安倍外交「対北包囲網」強化で結実
杉浦 正章
政治評論家
トランプ「商談大統領」の欠陥を首相・安倍晋三が補完して、北朝鮮に対する国際世論を盛り上げ、包囲網実現へとつなげたというのが一連の外交の舞台裏の実態だ。トランプは外交・国際政治に無知という弱点を露呈した。疲弊したのか、国内政局が気がかりなのかトランプは最重要会議である東アジアサミットを欠席して帰国、アジア諸国首脳らの落胆とひんしゅくを買った。複雑な利害の錯綜するアジア外交への対応能力の限界を見せた。米最大の発行部数の高級紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「トランプ氏が中国による重商主義拡大を米国の犠牲の下に放任した」と警鐘を鳴らした。
逆に安倍の活躍が目立った。安倍の基本戦略はまずトランプの訪日で、核・ミサイル開発に専念する北に対する圧力を最大限に高め、日米共同歩調を確認する。その上でトランプに中国を説得させて北への圧力を強化。次いで東南アジア諸国への働きかけで国際世論を盛り上げる算段であった。ところが肝心のトランプが中国で習近平の手のひらで踊ってしまった。2500億ドル(28兆円)の「商談」で舞上がって、対北問題をお座なりにしてしまった。一応は北への圧力を最大限高める方針を主張したが、習近平は国連決議の履行以上の言質を与えず、軽くいなされてしまった。効果への疑問が指摘されている2500億ドルの「商談」に目がくらんで、毎年2700億ドル規模の対中貿易赤字が発生している問題などは素通りしてしまったのだ。
一方安倍は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国首脳と精力的な会談を行い、北朝鮮問題の実情を説明した。これが14日の首脳会議に結実した。ほとんどの首脳が北の核・ミサイル開発に対する懸念を表明するとともに、国連安保理決議違反を指摘した。総じて北朝鮮包囲網が出来上がった感じだ。さらに重要なのは多くの首脳から中国が実効支配を進める南シナ海の問題に関して「航行の自由に抵触しかねない」などの懸念や指摘が出されたことだ。東アジアサミットは議長声明で北朝鮮による核・化学兵器など大量破壊兵器やミサイル開発を非難し、核・ミサイル技術の放棄を要求するに至った。これは北朝鮮の兄貴分である中国をけん制するものでもある。一方でトランプは、米政府がこれまで中国の人工島造成による軍事拠点化に、「待った」をかける役割を果たしてきたことなど念頭になかった。結局南シナ海問題で中国への強い姿勢を打ち出せないままとなり、強い指導力を発揮させることは出来なかった。オバマや歴代大統領が打ち出してきたインド太平洋地位域に関する自らのビジョンを示さないで歴訪を終わった。15日付読売によるとベトナム外交筋は「米国が南シナ海問題で抑制的に対応する間にも、中国は軍事拠点化を着実に進める。遠くない将来、中国の南シナ海支配を追認せざるを得ない時が来るのではないか」と述べているという。
経済問題でもトランプは「インド太平洋地域のいかなる国とも2国間貿易協定を結ぶ。われわれは、主権放棄につながる大きな協定にはもう参加しない」と発言した。これは米国が戦後作り上げた多国間貿易システムを否定し、輸出のための市場を自ら閉ざすことを意味する。TPPの離脱で米国の輸出業者はGDPで世界の16%を占める市場で不利な立場におかれるからだ。トランプはいまや2国間協定で米国が個別に圧力をかけようとしても、貿易構造の多様化で多くの国が痛痒を感じない状況であることを分かっていないのだ。WSJ紙は「米国の最大の敗者になるのは、農業州と中西部にいる大統領支持者だろう。TPPは米国にとって、アジアの成長から恩恵を得られる絶好のチャンスであり、トランプ大統領の抱く不満の種を是正する部分が少なくない」と批判している。しかし、かたくななまでに2国間貿易に固執するトランプの方針は覆りそうもなく、世界は次の政権を待つしかすべがないのが実情だろう。こうしてトランプのアジア歴訪の旅は、指導力を発揮するどころか、事態をますます流動的なものにしてしまった。逆に共産党大会で独裁体制を確立した「習近平の強さが浮き彫り」(ワシントンポスト紙)になった形となった。国連制裁の結果北朝鮮情勢が年末から新年にかけて激動含みとなることが予想されている中で、世界は「トランプ問題」を抱えることになる。
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